± +α1−5 SUB TITLE 問1、ドイツ語で白い十字架は? 大地を蹂躙する黄金の矢。 顔を覗かせたばかりの太陽は街の建物をすり抜け、中心にある小高い丘に鎮座した城を射抜いた。2日間降り続けた雨は嘘のように止んでいる。木々の葉に僅かに残った水滴は、風に揺られ、陽光に溶けていった。 「いそげ!いそげ!」 頭にギャル?液体を乗せた少年は、上からの掛け声に合わせて目的地に向かっていた。 太陽が半分地平線にかかる頃、獣人の男の子と液体固形物は城の側に設けられた墓地の入り口へと辿り着いた。周りを鉄の柵で囲まれた眠り人の庭は、隅々まで行き届いている手入れの割に華が少ない。無宗教に近い国の現状か、種族間の相違か、墓に花を添える習慣は薄く、ごく一部の者達しか訪れないようだ。刈り込まれた草木や磨かれた石碑は、夜な夜な出没する管理人の戦没者と封印されている者への敬意の現れだろう。 「ギリギリセーフですねぇ」 「………」 朝日の中に、金髪よりなお眩しい白い歯を零す占い師と、絶対に低血圧なロングコートの剣士は佇んでいた。 「ターケちゃーん!」×2 「………すやすや」 「寝てるじゃん!(立ったまま)うわーやる気ゼロ?」 「むしろマイナスよね」 「朝は苦手らしいです。ここの管理人と同類ですかねー」 「………ズパエー…」 「誰やねん!?」 同時につっこむバルとカスト。何かの名前を寝言にしているタケヒロの背後では、チャームポイントの仮面を被った管理人が、掃除を終えて自分の寝床に戻っていく所だった。もぐもぐと彼が潜った土の上には、ジェイソンと書かれた表札が飾られていた。(墓標) 「それでは行きますか!」 「タケー、そろそろ起きないと……カスト背中に入れるよ☆」 「朝は冷たいわよぅ……フフフ」 「……いい、覚めた」 アイスノン液体を向けられ覚醒したタケヒロを知ってか、知らないでか、仰は墓場の中心まで進んだ。見据える先には何も無い。芝生の上に点々と四角い墓石が並んでいる。 今、太陽の真円は音も無く完成した。城の正門に掲げられたマーメイドのステンドグラスに惜しみない陽光は注がれ、水の色へと姿を変えて、4人の立つ眼前へと差し込んだ。誰が気づくだろう?蒼いガラスの人魚が、反射した日の光でセイレーン封印の在り処を示しているとは。 目の前の風景が、電波障害のテレビのように歪む。だが歪はそれ以上広がる事はなかった。 「特殊な結界でして。鍵が必要なんですよねー」 「……いやん、悪い予感するわ」 「まあ、君の運命だね」 「諦めて行ってこいっ!」 「きゃー!おーやーくーそーくーっ!」 カッキーンっ!!! 叫びと共に、日本刀でホームランされた液体は、星にならんばかりの勢いで目前の景色を突き抜けていった。 同時にガラス音が響き、結界は崩壊した。延々と続いていた墓場の光景は消え、一軒の建物が視界に飛び込んできた。白い壁に城と同じステンドグラスを備えた荘厳な建物は、蒼い屋根に白い十字架を称えていた。水の姫が眠るに相応しい教会。 「…………」 歩を進めようとしていたコートの裾が、逆に揺らいだ。仰も眼鏡の奥の瞳を薄く開けている。黒い手袋は静かに日本刀の鞘へと伸びていた。 「バル、カストを……」 忠告より早く、獣人の少年は走り出していた。類まれない聴覚は、地の底から響く異音を逃してはいなかった。数メートル離れた地面に転がる水色ゼリーも、伝えやすい体質により、肉○粉のように振動を体現していた。 バルの手が水色の落し物を拾い上げた瞬間、異音の正体はゴボッ、という音を上げて姿を現した。土の中から腐食した青白い腕が生えている。 「ぎゃーっっっ!ゾンビだーっ!!」 腕は逃げ道を塞ぐように次々と現れ、その全身まで地上に抜け出してくる。動く死体はどれも元の形を留めておらず、まともに歩けてはいないが、数が多い。しかも死体は殺すのが難しい。(格言?)囲まれた少年と液体は迷わずSOSを出した。 タケヒロは這い寄るゾンビに刃を振るった。2つに裂かれた死体は切り口から腐臭を放ちながらも、別々になって襲いくる。金の占い師は両の掌に数枚のカードを翳した。 「これは死体に水を入れて人形のように操る術です。一瞬で灰にするか、粉々にしなければラチが空きません。私に死者を冒涜させたいようですね……」 「仰、誘いだ!乗るな!」 「仰ちゃん、やめてー!でも助けてーっ!」×2 「それ難しい注文ですよ」 最高種族者に、力を使わせようと企む褐色の笑顔がタケヒロの脳裏を過ぎる。舌打ちし、肩に日本刀を構えた剣士を止めたのは背後の音だった。振り向かずとも想像できた。チュイーンという独特の機械音、ジェイソン君ご愛用のチェーンソーの作動音だ。 「13日の木曜日だわ!」 「金曜じゃん!」 まだボケる余裕があると見て、お子ちゃま組を見捨てたタケヒロは後ろに意識を移した。刹那、 ガゥン……っ!! 一発分の銃声は響き、彼らを取り巻くゾンビとジェイソン君を肉片へと帰した。地に落ちたチェーンソーが虚しく唸りを上げている。 タバコを咥えてないせいか、印象の違う赤毛の男は空になった2丁の拳銃にマガジンを込め直し、言った。 「早く行け、長くは抑えられねえぜ」 「何言ってるのさ?」 駆け寄ろうとしたバルを大人2人は阻んだ。震えている銀の腕に、すぐに気づいたからだ。頭上の液体が浮かべた沈痛な面持ちは、彼の身に起こっている兆候を獣人の少年に看破させるに至った。 「無茶しますね。あなたも、ララも」 「バカが。もう少し後先を考えて行動しろ」 「HAHA、オメーらに言われたくねー。……じゃあな」 作られた薄い笑みが、この兵器を人形のように錯覚させた。それがカンに障ったらしく、 「LEV!僕、自慢じゃないけど忘れっぽいよ!」 「そうよ!私も昨日の事を覚えてないわ!(問題あり)だからLEVの事なんか速攻で忘れちゃうのよ〜ん!」 「悔しかったら、意地でも戻ってきやがれってんだコンチクショー!」 「……という訳で(強引に括る)、もし出来なかったら」 「罰金100万だな」 「高っ!!…ったく、罰ゲームかよ」 「返事は?」×4 「……了解!」 両の銃が火を吹き、忍び寄っていた数体のゾンビを吹き飛ばして教会までの道を開く。今だ生への執着があるように死者達は地上への回帰を止めない。LEVは4人の背を確認した後、一度ツナギの袖に左手を戻し、銀の手の中にコード付きのボタンを握った。数時間前を思い出した。ヒールで踏まれた後頭部の痛みは、良心の呵責だろうか? (理由ぐらい、ちゃんと聞かせな) (……自分勝手に弟みてえに思ってんだ。あいつらより後に死にたくねえのよ) (ふーん。まあ、悪くないね) 動こうとしてベットから床に転がっていた赤い芋虫を、ララは踏みつけ、覚悟を聞いた。(女王様!) 紅い口元を悲しみで彩らせて、ララ・エクストラがLEのラストメンバーに施した改良とは、メタルの心臓に亜酸化窒素をぶち込むというもの。NOS(NITROUS OXIDE SYSTEM) 仰ちゃん一口メモ☆NOS(ノス)とは高温で酸素に分解する亜酸化窒素をエンジンにぶち込み、急激にガソリンを燃焼させるという、現在最先端の加速装置システムの事(車用) 覚えちゃいけませんね。 結果、ボタン1つで驚異的な回復力と、1発の銃声で弾丸全てを打つという神業を行えるが、たった数秒間の代償は大きい。 ゆっくりと銀の指がスイッチを入れる。LEVは生きている頃は同じ国民だったゾンビに、焦点の合っていない瞳を向け、唇からは呪われた言葉を吐いた。 「オール・エン……エネミー(存在するもの全て敵)」 閉められた教会の入り口の外で、銃の咆哮は聞こえた。 『感傷に浸ってる場合じゃないと思うなあ……。特にタケヒロ』 頭上から流れた声は、スピーカーを介した反逆者・ミノルの物だった。 カツンと靴音をさせて、恰も翼で舞ったように白い女神は4人の前に降り立った。真上に真っ白な十字架を置いた祭壇に、女性の服はこの上なく映えている。タケヒロが白装束に思えていたコートは教会の空気に洗礼され、幸福な象徴の衣装へとイメージを一新していた。 「……カナ」 『さあ、仕切り直しだ。純潔の血でセイレーンの目覚めを飾ってよ』 木の横イスが陳列し、中央にはヴァージンロードを完備した教会の中で、白と黒の影は再び対峙した。ステンドグラスから降る水色の光だけは、祝福するように満ちていた。 累々と転がる原型の留めていない死者達の中で、唯一満足な体をした赤毛の男は座り込んだまま空を仰いでいた。だが白濁した目の写している物は暗い宇宙だけ。LEVは失ったばかりの視界で、なんとかツナギのポケットからタバコを取り出したが、ライターが見つからない。仕方なく咥えるだけにした。 喫煙者にはこの上ない苦痛でも、最後に意識を取り戻せただけで先に逝ったキョウダイよりもマシと感じた。限界まで引き出された力は著しく機械の寿命を縮める。消失していく五感が辿る路は、この庭園に似合う完全な停止だ。 ポッ、と鼻先に暖かさが灯った。 LEVは反射的にフィルター越しの空気を吸い込む。立ち上る紫煙を揺らさずに、赤い短髪に何か触れた。目が見えれば、それが女性の指だと理解できただろう。 指先が離れると同時に、脳内を電流が走った。 音の聞こえるほど強い衝撃に思わず閉じた瞼を、慌てて開かせたのは囁かれた言葉だった。耳に残っているのは、あの日と同じ優しい声。 (こっちは4人もいて騒がしい。アンタはまだ来なくていいわ) 明るくなっていく視界を拒むように、LEVは腕で顔を覆った。NOSの影響による意識の困惑か、この場だから有り得た奇跡かは判らないが、確実な事は1つ。背中を預けている冷たい墓石には、LOW・EXTRAと刻まれていた。 前に戻る 次に行く |
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