「………大丈夫ですよ」 金の占い師の先で、炎が上がった。 ドラゴンの吐いた火炎が渦となってバル達を襲う。 オレンジの波が広がっていく中で、耳の生えた頭から滑り落ちる液体固形物。 ぷにょぷにょと体?を揺らし、出来うる限り伸びてみる。 高温の熱と水色のベールがぶつかり合う。 「わはははは、水の私に炎はきかなーい!」 カストの得意気に笑う声の中で、吐血を拭い赤く変色した袖がバルの肩を掴む。 「ぎゃー!ゾンビだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「死んでねぇし、…つうか何で戻って来たんだよ?」 「言っとくけど、タダじゃないよ」 「は?」 「後で奢りねー♪」 バルは跪いたままのLEVと会話する。 動けるほど、回復はしてないらしい。 これからどうしよう?とバルが思考を巡らせる矢先、カストに異変が起こる。 大量の気泡が発生し、ヤカンの湧いた音があちこちから鳴り始める。 「沸騰してるっ!」 「カスト!」 「ノォオオオオオオオオオオーッ!」 輪郭が崩れていくゼリーにバルは手を差し伸べた。 「誰だよそれぇ!?」 彫の深い液体がいた場所から煙が立ち上り、指先をかすめて空に消える。 ドラゴンの火炎を相殺した水のベールは消滅した。 無防備の姿を曝す2人にドラゴンは喉を鳴らし歩み寄る。 バルの頭上で怪しげな積乱雲が発生し、竜を遮るように集中豪雨をもたらした。 雲に濃いままの顔が現れ、液体は状態変化しただけだと思い知らされる。 「たーだーいーまー」 後ろの方でずり落ちたコートの襟をタケヒロは正した。 「ね!大丈夫だったでしょ?」 「……反則だな、あの不死身っぷり」 「でも意外だー、トップクラスの暗殺者でも仲間思いなんですねー」 「俺にとって他人はターゲットか、そうでないかの違いだけだ。仲間とは思っていない。……敵としても、見ていないがな」 「……………………」 タケヒロは気付いていない。 引っか回されたおかげで、本心をのぞかせてしまったこと。 それは仰が最も聞きたかった言葉というコト。 人生を決めるのはたった一言で十分だというコト。 仰は今までで一番優しい笑みを満面に浮かべた。 ドラゴンに動きがある。 背の羽を広げだしていた。 ドラゴンはその巨体を動かせる為、主翼と他2つ、合計4枚の翼を持っている。 この部屋では主翼を開ききれず、下の羽を持ち上げた。 翼の一筋一筋から風が生まれている。流されていく雲。 (いやん、飛ばされてるっ) 「あらーマジギレしてるっぽいですよー」 「……仰、まかせるぞ」 「私、ですか?」 「お前しかいないだろう」 「……承知しました」 その場を離れるタケヒロを見て、苦笑する仰ちゃん。 (バレちゃったかな?) 巻く風が床まで到達すると、数本の衝撃となって周りをなぎながら標的を狙った。 条件反射で伏せるバルの眼前に剣を持った男が割り込んだ。 「きゃーカッコイイー」 金属音を響かせ、受け止めた衝撃波の軌道をずらしたタケヒロだったが、表情が固い。 奥歯を噛み、額に汗を伝わらせていた。 受けきれなかった1本の風が右腕をかすめていた。 黒っぽいコートの、二の腕辺りに切れ目が入り、鮮血が噴き出す。 「らしくねーな。何やってんだよ」 致命傷にならなかったのは流石と言えるが、わざわざ怪我を作りに来たとしか思えない。 仕事上、立場上、庇われる理由も義理も、自分達には存在しない。 「………奢ってもらえるんだろう?」 「マジなわけ?それ」 利き腕を押さえながらタケヒロは壁まで後退した。 ついでに伏せているバルも引っ張ってくる。 フッ……… 部屋の照明が消える。 たった1つ残ったライトをスポットに、金の髪の男は暗闇に浮かび上がった。 目が天の3人をよそに、仰は決めポーズを取っている。 「そろそろブレイクにしましょう」 笑顔を向けるが、ドラゴンは応じない。 「戯言を…。我が身への屈辱、そなたらの命を代価にしても足りぬわ」 怒りの収まらない竜は、眼鏡を外し出す仰に向き合った。 「聞き分け悪いですね。まぁ若気のイタリってやつでしょうけど…」 仰は薄く開いた瞼の間から、射るような視線をドラゴンに浴びせる。 死をイメージさせる驚異的な殺気に、この場の全員が身動き一つ出来ないでいた。 「度が過ぎました、ね」 拳法を思わせる独特の立ち振る舞いから、シュタッと宙に飛び上がった。 畏怖を感じたドラゴンは、炎を吐いた。 正確には防衛本能が働き、火炎を出させられた。 「ホアチャアッ!」 仰は襲いくる高温の息を素手で払い退けて、握りしめた拳を背に一撃する。 部屋全体を揺らし、背をひしゃげて竜は倒れた。 巨体の平伏した床には亀裂が走り、崩れそうになっている。 火竜はこの時点で意識を失っていた。 「ホォオアァ…チィヤァァァァァァァァァアー!」 鬼のように連続で数発、追い討ちをかける。 その後、トドメとばかりに渾身のカカト落とし(ネリチャギ)を食らわした。 ビシ! 床がその衝撃耐えきれず、ドラゴンもろとも落下する。 飛びさる仰の下で突き抜ける音が2回聞こえた。 中央にできた大穴から下を覗けば、1Fまで繋がっているのを確認できる。 「I'm Winner!」 スポットライトの中で、チャンピオンベルト(どこから出て来た)を誇らし気に掲げる仰ちゃんは、最高に良い仕事を終えた顔をしていた。 その周りには紙吹雪が舞い、歓声(誰か)まで上がっていた。 照明が戻る。 実は天井付近にスイッチがあり、雲カストがADになっていたり…… カンペから照明まで、全てこなすスーパーAD。 ……落ちがついた所で……… 間。 歩きながらタケヒロは破れた袖を使って、腕の出血を止めていた。 壁を伝い階段を上るLEVがそれに気付く。 「腕、使えんのかよ?」 「…吐血してたヤツに言われたくないな」 「ホントよく動けますよねー。いくら金属の心臓でもアレは結構な衝撃でしょうに」 「え!何?心臓も?LEVってどこまで機械なの?」 「左腕と心臓……ってソレ軍の機密事項だっつーの。仰、何で知ってんだよ?」 「ひみちゅ」 仰は少女マンガの目で誤魔化した。 上では雲がふよふよ進んでいた。 「カストー戻っといで」 「へーい」 扉まで到達したのでバルは雲を呼び寄せた。 カストから雨が降り出し、超集中豪雨になった。 降水量に比例して雲の体積が減っていく。 雲が消滅すると、溜まった水たまりが蠢き、 ポニョニョーン! 玉のような体(実際、玉)、艶やかな水色の肌(?)、シンプルな顔。 「ふっかあーっつ!!」 「おかえりなさーい!」 クラッカーを鳴らして生還を祝う仰とバル。 「…………でたらめすぎ。この生物(ナマモノ)」 つっこみ所が多すぎて気力をなくす他2名。 このようなメンバーで最後の扉は開かれた。 ◆前にいくー!◆ ★次ー!★ |
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