最後の扉はドアノブの付いた、ごく一般的な形状で、非常通路に続くそれと似通っていた。
バルの力でも簡単に開くせいか、仰が道を譲った。
不思議がりながらも耳の生えた頭は扉前まで階段を登り、銀色のノブを回した。
静かに腕を奥に押していくと、隙間から照明の光が洩れだした。
扉を開け放つと、あきらかに1F、2Fとは異なった部屋に招かれた。
最後ということで、気の抜けた5人の前には、寝息を立てている真っ赤なドラゴンが待ち構えていた。
…………ドラゴン
あらゆる武器を跳ね返す強靱な装甲の皮膚と、数十メートルにもなる巨体に拘わらず俊敏で獰猛な手足を持ち合わせ、口から吐き出されるのは骨も残さない高温の火炎。
それと長い尾と美しい羽を特徴としている。
パタン
扉を手前で閉め、4人が仰に詰め寄る。
「…いくらなんでも、あれは無ぇだろ」
「最高種族じゃん!分かってんのっ?この世界で最強なんだよ」
「………死にたいなら1人でいけ」
「別に倒せとは言ってませんよ。このメンバーじゃ無理でしょうしー、鍵だけそーっと取ってダッシュで逃げれば良いじゃないですか」
「わーカンタンそーね」
「大丈夫ですよー。はいはい、分かった所でさくさく進みましょう、ね!」
再び扉を開き、強引に背を突き飛ばして全員入った事を確かめると、仰は後ろ手に入り口を閉めた。

これで後戻りが出来なくなりました。
覚悟を決めましょう、と笑顔の仰ちゃん。
この状況で笑ってられるのはさすがというか、何というか。
この部屋は1メートル程下へ段になっていて、これまでで一番広い空間が取ってあるが、火竜の存在がそうさせるのか、圧迫感がすごい。
左右の上方から高出力のライトで照らされて眠る最強を誇る一族。
「はー、こんな所で死ぬのかー」
「諦め早いですねー」
「だって絶対ムリじゃん!ドラゴンと遭遇して生きて帰ってきたヤツいないでしょ?全滅確定じゃん!」
気持ちが後ろ向きのバルの頭で、カストが渋い顔をして、自らが作ったブラインドの間を覗いた。そして、
名言「誰も帰ってこねえ………」
横でもやる気のない戦闘員2人に仰はため息をついた。
(まあ、無謀な戦いはするなと教育されてますしねぇ)
仰ちゃんは足元に落ちていた石を拾い、止める間もなくレッドドラゴンに投げつけた。
「「ぎゃー!なんばしょっとねっ!?」」
思わず大声を張り上げるバルと液体。
投石により目を覚ましたこの部屋の主は、前足を立たせると首を持ち上げ、鋭い眼光を小さき者達に向けた。
「……やる気でました?」
にっこりと微笑む仰ちゃん。
「………何故、我が眠り妨げん?」
目を細め、部屋中に響く重い声でドラゴンは問う。
本来、好戦的ではない彼等だが、ナワバリ意識が強く、テリトリーに入った者は全て敵と見なす性質がある。
おまけに今は寝起きで機嫌が悪い。
どう考えても見逃してくれそうにない。
「あなたがお持ちの鍵を頂きに参りました」
「…これは人より預かりし物……安々と貸す訳にはいかぬ」
「…そうですか。では、実力行使といきますか」
気負いも恐れもなく、はっきりと言い切る。
煽ってどうする?とツッコミを受けながらも、仰は闘技場に降り立った。



円形のコロシアムを模してある部屋の大半を占めているドラゴンには、数歩進だけで手が届く距離だ。(身丈20M弱)
勇気ある挑戦者に、最強のモンスターは咆哮を上げた。
背筋が凍り付く。殺気だけが空気に漂っていた。
触発され、己の武器を手に取る2人。
「バル、鍵を見つけられるか?」
タケヒロが振り向かずにバルに言葉をかけた。
「…やっぱ気付いてない?……あれ」
バルが指さす方向を見ると、火竜の首に細いチェーンがかかっていた。
そこに通してある銀の小物。
(カギっ子じゃん……)
思わず顔に斜線が入る。
ドラゴンの威厳に飲まれ、わっかりやすいそれにまったく気付かなかった。
残された問題は奪うことだけ。シンプルな打開策だ。
「…後は任せた」
自分自信とも言える武器で戦闘体勢を取った、タケヒロとLEVが前に飛び出す。
「えっ?」
「気を引く。その間に盗め」
「ええっっっっっっっ!?」
石化する少年を残して、3人が敵と対峙する。
自然の装甲を持つドラゴンには銃、剣といった類いは一切通用しない。
素手なら尚更だろう。
仰の前に出て、更に竜との間合いを短くする。
「びびって隠れているかと思いましたけど?」
「1人だけカッコつけさせる訳にはいかないだろう…」
「ったく、無謀すぎ。オレより後先考えねぇヤツ初めて見たぜ」
「いい勝負だ」
「それは心外です」
「おーい……」
ハッタリの余裕を見せる2人の背に、仰は笑顔の裏で冷静な視線を向けていた。
金の髪と、眼鏡の間から覗かせる瞳は真意だろうか?
「………脆弱なる勇気、恐れいる。そなたらに敬意を表し、我の全力を以て答えよう」
ドラゴンが口を開け、息を吸い込む。
3人が三様の方向に飛ぶと同時に、その場に火炎が注ぎ込まれた。
勢い良く吹き出された炎はうねり、壁さえ焦がす。
「ぎゃー!あっっっっっっついじゃん!」
逃げ惑うバルは先に階段を登って非難しているカストを、薄情者と叫びながらダッシュで追った。
左右に分かれたタケヒロとLEVが攻撃を仕掛ける。
(仰はお決まりの回りで、まだ空中にいる)
着地した場所から正面に戻りつつ、両腕の銃口より全ての弾丸を発する。
殺す気で拳銃を撃ちまくるLEVだが、ちゃんと狙いは頭部付近に絞っている。
集中力の差からか下位の部屋とは違い、全弾命中させているが、傷一つつけられない。
弾道がひん曲がっている。
反対側、タケヒロは上に飛び、鞘から外した日本刀を上段で構え斬りつけた。
キイィンッ!
通常なら真っ二つにできる手ごたえが、重く返ってくる。
「やはりダメか………」
眉をよせ、ドラゴンの背を蹴って離れようとする。
その不意をつき、赤い竜が尾をタケヒロに向け振った。
「っ…………!」
浮いている状態を狙われ、かわしきれずに刀身で受けた。
衝撃はとまらずそのまま飛ばされる。
何とか着地はしたが、足を引きずったまま壁際まで追いやられた。
考えていたよりも動きが早い。
舌打ちし、正当法を試した自分の甘さを痛感した。
「だから鍵だけ狙いましょうって」
天井に背中をくっつけて、上から傍観する仰が忠告する。
どうやって留まっているかは謎だ。
「テメェは降りてこんかいっ!」
カシンッ……!
LEVが上を気にした直後、音と立てて弾倉が空になる。
視線を戻すと、微笑を浮かべるドラゴンが見下していた。
「サイアク……」
右手の銃を手放して、弾倉を取り出す。
その間に機械の指でスイッチを押し、空のマガジンを捨て、再装填を行う。
わずか1秒ほどでリロードした銃を両手で構えるが、ターゲットがいない。
目を離した覚えはないのだが………
上から気配が振りそそぐ。
肉眼で確認するよりも先にLEVは後ろに退いた。背後がすぐ壁だと知っていたのに……
逃げ道を考える余裕さえ与えてもらえない。

竜の族は空間を操れる。
固体により差はあるが、ほとんどのドラゴンがテレポートといった移動術が使える。
レッドドラゴンが深紅の腕で獲物を捕らえる。
前足は者を掴むこともできる形をしている。
抵抗の素振りを見せないメタルド−ルにドラゴンが顔を寄せる。
「…どうした?心までも人形に成り果てたか?」
「………あー」
体を包む手から避けた左腕を、正面に向けた。
ガンッ!
反動で銃が反る。
「貧乏くじばっか引いてる気がするぜ」
打ち抜いた銀の鍵が舞う。
「がまんしろ」
肩に刀をかけた型からタメもなく、タケヒロは技を繰り出す。
真空を生み出す日本刀の技は、ドラゴンの反応速度をはるかに上回っている。
地を裂きながら直進する三日月の衝撃波は、鍵を繋ぎ止めていた鎖を断ち切った。
ライトに照らされ、銀色の紋章の入ったキーは光ながら深紅の肢体から離れていく。
首を持ち上げるドラゴン。
空中のそれは昇る速度をゆっくりと落とし、今まさに落下を始めようとしていた。
そこへ颯爽と現れる小さな手。
スリの経験がある少年は水色のロープで手を縛り、最高点に達した鍵を奪い去った。
ヒモ状まで伸びたカストが「千切れる×2」と叫んでいる。
端で天井に捕まっている状態だ。
バルはターザンの要領で反対側の階段(階段は壁伝いに部屋を一週している)に着地し、カストを巻き上げる。
パチパチと拍手する仰ちゃんはまだ天井にいる。背中吸盤になってる?
「よっしゃ、鍵ゲーット!……それでわ」
嬉々と脱出を計る2人に苦情が寄せられる。
「こら!助けようって気は?」
「がんばってー」
「うっわ、冷てえ」
手中のLEVをよそに出口を目指すバル。
それを狙う竜の目がざわつく。
「…おい、テメーの相手はまだオレだろ」
「よく強がる。人形の身分、わきまえよ」
「あ?そっちこそトカゲの分際で調子のってんじゃねーぞ!最高種だか知らねぇが、たかが爬虫類だろうがっ!」
赤いドラゴンの表情が一変し、捕らえている獲物を逃さぬよう指に力を込めた。
「っ……」
「……その減らず口、どこまで叩けるか見物だな」
怒りを露にするドラゴンは、手の中の物を岩壁に投げつけた。
トリガーを引く間もなく、男の背と頭は壁に沈む。
ドゴォォォォォォォン!
衝撃と振動に出口まで数段の所の、バルの足が止まった。
丁度、バルのいる真下の壁が崩れ、砂埃が上がっている。
「LEV!ねぇ、生きてるっ?」
身を乗り出したバルは、下の光景に血の気が引くのを感じた。
直接壁に打ちつけた頭から出血し、激しく咳き込んでいる口元からは、おびただしい血が溢れていた。
追い討ちをかける様にドラゴンが大きく開いた口から、轟音の咆哮を上げた。
手加減なしで息を吐き切ったのは、火炎を吐き出すためだ。
虚ろな意識の中、LEVは立ち上がろうとする。
「だーっ動くな!頭真っ赤じゃん」
「バル!そのバカはこっちで何とかする。先に行け」
タケヒロから指示がくる。
確かにその方が良いのかもしれない。
「……カスト」
「いいよん」
いつもの事と言うように、カストは特等席から自然な返事をする。
手に入れた鍵を扉に投げつけ、液体と一緒に階段から飛び下りた。
「…!ちぃ………っ!」
舌打ちし、タケヒロはドラゴンに向け、刀を振った。
が、突然前に振ってくる仰に遮られる。
仰は真空を生み出す刃を指2本で停止させ、もう一方の指先で眼鏡を押し上げる。
薄く開いた目はひどく冷静を保っていた。
「どういうつもりだっ!?」







◆前にいくー!◆
★次ー!★





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