「テンポ早えなー」
扉に鍵を差し込む。
入り口同様、かなり重厚なハズの扉が簡単に押される。
タケヒロは扉に進むツナギ姿を呼び止めた。
「……おい」
「あ?何?イチャモンでもつけんのかよ」
「休戦中だ。それに私情でお前と争う理由はない」
「…お互い仕事って事か。で、何の用なのさぁ?」
タバコをふかす男と殺し屋家業の男が話し出す。
生えた耳をピクピク動かして、バルが盗み聞きしようとしたが、その頭を掴まれてそのままぐりんと振り向かされた。
「痛!首折れるじゃん!」
「いや、コイツがさぁ、服脱げって言ってんだけど」
「……何すんのさ」
「いやん!フケツよ」
「そういう意味じゃない。中のベストを貸せと言ったのだ」
「あーはいはい。冗談も通じねぇのかよ。わかったよ」
LEVは真顔で後ろから刃物を首筋に当てるタケヒロに従った。
ツナギのジッパーを途中まで下ろし、下に着ていたジャケットを脱ぎ、補充用のマガジンを出してからバルに渡す。
「一応防弾処理はしてあるから」
「へ?僕に?」
「おう、服の代わりだってよ」
「………」
横を通りすぎるタケヒロが小声で悪かったと言う。
照れ隠しの様に急ぎ足で扉に向かった。
「殺し屋ってわりに良い人ね?」
「まあ、死んで当然の奴もいるしね。でも何で僕切られたの?」
「はは!安心しろよ。あん時はオメー狙いじゃねぇから」
「じゃ……」
「そ、オレ。正確には公安部隊。入国してる情報は流れてたからすぐ出てくるのは分かってただろうし、テキト−に騒ぎを起こして連行されるつもりだったんだろ。あいつらは国の要人しか狙わねぇし」
「そこにちょうど手頃なスリが来たって事かー」
「タイミング悪すぎたのねー」
「カストが行こーって言ったんじゃん!」
「そこの皆さん〜閉まったら一生出れなくなりますよー」
先に行ってる仰から注意の言葉がかけられる。
「待ってよ!なにげに怖い事言わないでよ!」
2人は急いで扉をくぐると前の部屋よりも天井が高い場所に出た。
階段が壁を伝いながら螺旋状に上がっている。
その中心、吹き抜けになった場所に鍵が浮いていた。
ジャンプしても届かない位置の鍵はゆっくりと回転している。
「…それ、貸して」
「はい」
「はい?」
LEVに貸し出される液体は、ぷるんと体を揺らして手に乗せられた。
嫌な予感がする。
「取ってこおおおおおおおおい!」
「やっぱりなのねぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇっ!」
力任せにぶん投げられた液体固形物が泣きながら飛んでいく。
「あははははーいけー」
横で笑い出す仰ちゃんの笑顔が小悪魔じみている。
カストが近づくにつれ、銀の鍵は回る回転を速めていった。
残り1メートルにまで迫ったところで高速と言える程の速さになっていた。
「なーにーこーれぇ?」
突如、鍵の周辺から風が生まれる。
風圧を増したそれは瞬時に巨大なものへと変化していった。
目がけた軌道から横に体が逸れ、風に乗るというか、巻き込まれるというか、鍵を中心にした竜巻に液体は飲み込まれていった。
「あぁぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇ」


「……あらー」
「どうすんのさ?ねぇ?投げた人?」
「どうっすかね?貸した人?」
「…取りあえず、責任を取ってこい」
さりげなーく後ろに回ったタケヒロがLEVを前に蹴り出す。
「おい!こらぁぁぁぁぁ!」
「楽しそうですねー♪私も行きますかー♪」
強制されたLEVと自主的な仰が竜巻に飛び込む。
2人は高速移動で周りながら上へと上っていった。
現れた風圧のモンスターの力は階段までは届いておらず、無事なタケヒロとバルは部屋の真ん中まで登ることにした。
壁つたいに伸びる螺旋階段を進むと上空から音が聞こえてきた。
見上げると、天井近くの壁に穴が開き、無数の影が竜巻に向かって飛び出していった。
「ただ今洗濯中ー、ゴウンゴウン」
「目が回るっちゅーに!いい加減止める方法考えやがれ、外野!」
「あははははー聞こえてませんよー」
回転移動に慣れてきたのか液体が衣服になって遊び始めた。
何週かすると脱水に入ったのか、ねじれていたり……
その脇を異質の風が通り抜ける。
スパッと水色ゼリーに切れ目が入る。
辛うじて端の一部分を残し、半分に分かれかけた。
「ぎゃー!」
「カマイタチですねー」
真空により皮膚が切られる現象の事だが、竜巻の内部には全く違うカマイタチが3人を狙っていた。
そう、それは鎌を持ったカマイタチ…。
「鎌イタチ?」
なにげに可愛いイタチ(フェレット系)共は両手に鎌を振りかざし風に乗って向かってきた。
「きゃー!来たわ!撃ってよ!」
「構わねぇけどさーこんな状況じゃゼッテー当たらない自信あんぞ」
「自爆しそうですね。火器はやめましょ。それでは、私はこれで」
カストを右手で引き寄せて、LEVはシルバーのアームでイタチ達を払いのけた。
仰ちゃんは座禅を組み、イタチの目をくらませるシールドを張っていた。
(カマイタチビジョンにはカストとLEVのみ)
したがって、標的は2人だけに設定され、ワラワラと列をなして向かってきた。
「何者なんだよ、てめぇはぁぁぁぁぁ!」
「人間離れしすぎ!」
「液体に言われるとは思いませんでしたー」
「サボってばっかじゃねーか!ちったー働けっ!」
「肉体労働、向いてないんですよー」
「その筋肉は見せるタメなの!?」
わったわたな状況の中にしばし、見とれているバルとタケヒロ。
「…助ける?」
「見捨てたい」
「でも鍵は欲しいよねー。あれだけこっちにくれないかな?」
本心を呟くタケヒロとバルに非難が投げかけられる。
「助けてよーっ」
「てめえらには鍵は渡さねえぞ!欲しけりゃ来やがれ!」
「ゲートキーパーが増えちゃってますよー」
高性能な耳は風音から声をちゃんと拾っていた。
バルはじーっとタケヒロを見上げた。
目からは聞こえたセリフを乗せたビームが出ている。
声に出さないのはタケヒロが人からの命令を嫌うであろうからだ。
「………仕方ないな」
重いため息を吐きながら柄を握った。
抜き身の日本刀を肩にかけ、歩幅を広げる。
目標に対し半身になり、左手を柄に添えて高く上げた。
「液体が前に来るタイミングを計れ」
「OK」
バルは風の道筋さえも見える瞳をこらした。
「来ますよ」
竜巻内の仰が薄く目を開ける。
黒塗りのメガネを上げ、注意を促した。
風の壁の間から見える映像がLEVの頬に汗をつたらせた。
タケヒロの肩にかけられた刃がゆっくりと動く。
渦巻く風の中を凝視していた目が見開かれた。
「タケヒロ、今!」
柄を振り絞る。弧を描いて刃が振り抜かれた。
「エア・ブレードかよ……!」
円弧状の真空波が風の壁を切り裂き、LEVの右手から液体固形物をもぎ取る。
押し出されたカストは竜巻の中心に抜け、風の渦を生み出した原因にぶち当たった。
「きゃああああああああ!鍵食べちゃったぁぁぁ」
鍵が液体の体内に取り込まれると、風はゆるみ飲み込んだ全てを解放した。
「キューキュキュー!」
イタチがぽてぽてと下に落ちて、戦闘不能となる。
見た目通り弱いようだ。
無事に生還した2人の上に水色の物体が戻ってくる。
ポニョンと揺れながら仰の頭に落下する。
「飲み込んじゃったの…」
「あらー取ってもらいましょうねー」
「…誰にだよ?」
仰ちゃんは笑顔で上で待つ2人の所まで行き、バルにカストを差し出した。
「取ってってv」
「……って僕が?」
「切ったら出てくるんじゃねー?」
「いやん、人でなし」
「あーもう、しょうがないなー」
バルがいきなりカストの体に手を突っ込み、食べた鍵だけを取り出した。
ゼリー状の体は穴が空いてもすぐに元に戻った。
「はい、これ!あー中身、触っちゃたよ」
「ヒドイわ!中も外も一緒なのよ!」
「君どうやって生きてんの?」
疑問符を浮かべるバルをよそに、鍵を渡してすっきりしたカストは指定席に乗っかった。
仰ちゃんは瞬間移動するかのごとく、既に二つ目の扉の前に立っており、鍵穴に鍵をさしてスタンバイしていた。
「次、いっとく?」
白い輝かしい歯を口元からこぼし、親指をつき立てて誘う仰に全員がやる気を失う。
緊張感の欠けたテンションのまま、次の間へと進む事となったが、これがある意味最後の和みとなったのかもしれない…………






◆前にいくー!◆
★次ー!★





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