朝焼けが眩しい。 街から離れた立ち入り禁止の地域に五人はいた。 そこは命の保証ができないという危険な場所だ。 絶壁の上にクレーンで吊るされた網の中に四人が入っている。 下は地表が見えない大きな穴が広がっている。 ベールを脱いだ仰がにっこにこな笑顔で手に巨大なハサミをもっていた。 「協力する?しない?」 「…強制的だな、おい」 「ここって危険度Aの場所だよね?マジかな、あの人」 赤い髪の公安と少年が呆れながら顔を見合わせる。 「どーっちだ?」 シャキン、とハサミを鳴らす仰にわずかの躊躇もない。 金髪とガタイのいい体にグレーの服を着込んで、愛用のメガネを朝日に照らしている仰ちゃん。 力では適わない事は立証済みだ。 「あーもう、わかった!話だけでも聞くから出して!」 「皆さんも?」 「……このままじゃラチがあかないのだろう?」 仰の目に光がともる。 指でメガネをずらし、手に持ったハサミを投げた。 凶器の向かった先は網を吊るしてある縄。 プツンと小気味の良い音とともに切れて、下部分が一気に落下を始める。 「ちょっと待てえええええ!」赤毛 「私は鳥よ!飛べるのよう!」液体 「無理じゃんー」少年 左右を羽の形に変え、羽ばたく液体に空中でツッコミを行いながら落ちて行く。 仰は、悲鳴混じりで消えていく四人の後を追った。 「ぎゃやあああああああ!死ぬううううううう」 頭の上から直に聞こえる絶叫に、少年は猫耳を折りたたんだ。 引っ付いている液体固形物が涙ながらに走馬灯を見ているようだ。 数秒で地表が近づく。 1人は刀を壁に突き刺し、落下を止め、横では両手に携えた銃を下向けに連射して落下スピードを緩める。 少年は目の前に迫った、地面目掛けて頭上の水色の物を投げつけた。 プニョンと弾んだ上に少年は降り立った。 ゼリー状のそれは全ての衝撃を吸収した。 「痛いんですけど…ううう……」 涙を零すそれを拾い上げ、特等席に戻してやった。 「ホワチャアアアアア!」 奇声が上から響き、全員が見上げると、仰がくるくると回りながら降りて来た。 その回転の凄さに思わず目を奪われたが、無事に着地した後にはしっかり目を回していた。 「変なヤツ」 「お前がいうな」 言い切る液体に少年がつっこむ。 眼前に写る扉に不審な目を向けながら、男は刀に付いた砂を振り落とした。 「……ここは?」 連れてきた(さらってきた?)張本人がその質問に答える。 「大戦前につくられていた遺跡ですよ」 「大戦前?じゃ、ざっと見積もっても100年オーバーの代物かよ」 「そーです」 にこやかな表情で答える仰に男が抜き身の日本刀を向けた。 「遺跡見学のタメに随分手の込んだことだな。本当に俺が貴様のいいなりになると思っていたのか?」 ゆっくりと軸足に過重を乗せ、踏み込む体勢に移る。 「……気が早いですね。求める物は手の中にあるのに……」 「何?」 「刃物に訴える癖、直した方がいいと思いますよ。タケヒロさん」 「…………」 「LE(エル・イー)・バル・それにカストロール。この困難を乗り越えれば運命の道が開ける事でしょう。前に進みますか?」 「運命……ジャジャジャジャーン」 「「それベートーベン」」 どこからかヅラを出し、交響曲を弾きだす液体に四人が言葉を刺す。 「てゆーか周り全部崖に囲まれてて出口ないじゃん。行くしかないんでしょ?」 「あ、バレてる」 「……ま、進むしかねぇなら、行きますか。あーそれから、一個訂正。名前はLEVでレヴ。覚えといて」 ツナギの首元をあけ、それまで隠れていたゴーグルで髪を上げてから、LEVはタバコに火を点した。 「それじゃあ、イキますよー」 石で出来た重厚な扉を仰は軽々こじ開ける。 思ったより広い内部は洞窟のようになっており、壁際には上向きに階段が伸びていた。 下は平らでかなりの空間が広がっている。 「全部で3階分の部屋がありまーす。ここが1階。それぞれ門番がいますから、鍵をゲットしてサクサク昇りましょう♪」 「門番?」 バルが首を傾げる。ついでに頭の上のカストロールも傾く。 その背後で、ゆっくり扉が閉まっていった。 光が遮られ一瞬暗闇が訪れるが、自動的に照明用のタイマツに火が入る。 「すっげー!宝箱とかありそうなカンジじゃん!」 「やっぱオイシイ仕掛けは必要よねっ!」 「この辺の壁とか何か隠れてないかな」 「む!バル刑事(デカ)。ここに怪しい物が!」 「なにい?でかしたカスト刑事!」 目を輝かせて意気投合した二人が刑事コントをしながら、壁に仕掛けられたスイッチを見つけ出す。そして止める間も無く、 「ポチッとな、…ってをい!」 「…悪い予感しかしないな」 音を立てながら部屋の一部の壁が上がってゆく。 奥から土で出来た巨人が十体出現した。 「………ゴーレム」 「いやん」 「おおー泥人じゃん!生は初めて見たよ!」 「意外と素早いからぁ、その辺注意ねー」 拳銃と刀を握っている二人を残し、3人はとっとと階段を上り始めている。 「戦うのオレらだけかい!」 「…それでは第1ラウンド、スタァートォーッ!!解説はおなじみ仰が勤めさせて頂きます」 「ゲストはワタクシ、獣人バルと」 「液体生物カストロールでお送りします。……ムキッ」(プロレスラーちっくに変形) 「……ミニコントはもういい」 有無を言わさず、戦闘員2人を土のモンスターが囲んでゆく。 四角い大きな肢体に頭はなく、短い足と下まで届く長い腕をしたゴーレムと呼ばれる種族。 ノーヘッドなので知能は低いが、土のみで変形されているおかげで中々死なない。 「…面倒だ。ド−ル、数を減らせ」 「わーパシリ扱い」 「同じ人形同士だ。仲良くやれ」 「…あのなー、人を人形呼ばわりするなっつーの。名前使うって脳みそねぇのかよ」 「人権も無いヤツがほざくな」 「てめぇもねえだろ!」 敵が迫っているにも関わらず、互いの挑発を続ける2人の姿を最上段に寝そべって(伏せて)いるバルが眺めている。 「チームワークゼロじゃん」 その横で、寝ている体勢から思い付いたのか、太い眉と厳しい目線でライフルを構えている形をしているカストロール。 ゴ○ゴ13? 一番早くに近づいたゴーレムがLEV目掛けて片腕を振り払う。 ガガガガンッ! 銃声と共に、ゴーレムの出した腕が吹き飛ぶ。 土誇から煙りが立ち上る2丁の拳銃が見えた。 「早くこっから出て、てめぇと決着つけてやる」 「……同感だ」 LEVは両腕を伸ばした。 そのまま、向かってくる土人形に順に向けながら引き金を引いていく。 マシンガン並みの連射速度で銃口から弾丸が発射されていく。 「危ないですよー」 「任務中だ……ゲフッ」 バルの隣でゴル○13もどきが流れ弾に当たる。 次々とゴーレムを粉砕していく弾丸の半数もが、的を外れている。 「きゃー!マジ危ないじゃん!」 「HAHAHAHAHAッ!死ね死ねええええ!」 「…………」 イッちゃってるLEVの背後にタケヒロが冷静な目を向ける。 機械部の反応能力が桁外れに高い為、1秒間に普通よりも約5倍多く撃てる。 (一度トリガーを引くと1発出る仕組み、マシンガンなどは引きっぱなし) (通常のメタルド−ルよりも反応が早いが、その分精度が落ちる。生身の右腕でそれを補って……いないな) 「へたくそーっ!殺す気かーっ!!」 「痛いじゃないのお!人殺しよ!訴えてやる!」 「あ、悪ぃ悪ぃ」 累々と散らばるゴーレムの残骸の中で、憤慨する2人に謝る。 LEVは撃ち尽くした弾倉をはずし、吸い込んでいたタバコの煙りを吐き出した。 「ところで、鍵は見つけましたか?」 「…鍵?そんなもんなかったぜ」 上を見上げる背後にゆっくりと起き上がる影。 「後ろ!」 バルが身を乗り出す。 その目には襲いかかる敵の中に光る物を見い出していた。 足が崩れたゴーレムの体の中心に埋め込まれた鍵。 「そいつ鍵もってる!とって!」 「…いや、余裕ないし」 弾丸を撃ち尽くしたLEVが見たものは、降り下ろされる崩れかけた砂の手と……靴底。 「………詰めが甘い」 「げっ!」 思わずくわえタバコを落としてしまう男の頭を踏み台にし、タケヒロは高く飛び上がった。 手に携えた日本刀に炎の灯りが写り込み、ゴーレムの動きが停止する。 着地より早く刃を鞘に収め始めて、つばがチンッと当たると同時に土は土に還った。 「礼は?」 柄の先で鍵らしき銀の物を掘り出しながら、薄く口の端を持ち上げる。 「…どうも」 「不満そうだな…」 「いや、アンタが手ぇ貸すとはマジで思ってなかっただけ。何か目的アリ?」 新しいタバコと弾丸の詰まったマガジンを装着する。 「…足蹴にしたコトは?」 「おお!それもムカついてるわ!」 「まーたケンカしてるよ」 上から見ているバルがため息を吐く。 「あの2人ってそんな仲悪い種族なの?」 「前の大戦が絡んできますからねえ…………… 2人とも最後の1年に投入されたんですよ。LEVはこの国の主力兵器『メタルド−ル』なのは知ってますよね?タケヒロは…彼の種族は、他国が保護している特別な一族なのです。。代々伝わるスキルは裏の世界では有名ですよ。暗殺者としてですけど……」 「暗殺者ですとっ!」 ビクつく液体。 「殺し屋が何で特別なワケ?」 「彼は唯一現存している人類ですよ。天然100パーセントの」 「果汁100%」 「………をい」 「むぎゅー」 みかん色に染まってみたカストを後ろから踏み絞る。驚愕するバル。 「ぎゃー!オレンジ色の液体が出てきてるぅぅぅぅぅ!」 「中身出てきてんじゃねーか?」 「お疲れ」 シュタと挙手と笑顔で仰は2人を迎えた。 タケヒロに手を差し出して、鍵を受け取り、先を急がせる。 鍵を確認した後、直ぐに仰は前を見た。 「まだ1個めですよ。次!いきましょ!」 ◆前にいくー!◆ ★次ー!★ |
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