黒塗りの鞘が人込みを抜けてゆく。 手に携えるは鞘を模した様な黒服の男− 長めの髪を上段で結いあげ、人よりも一段高い目線で 夜の街を闊歩していく。 現代、モンスターと呼ばれる種は人と交ざりあい共存の道を選んだ。 だが、人種同士での差別すら収められなかった人類には、バラエティに富んだ亜種を認める事ができず、世界中の国で中枢を巡っての種族間の対立が後を断たなくなった。 小さな不審の火は、やがて全てを巻き込んだ大火に変わった。 百年余りかかった大戦が終わり、この国には、数々の種族が生活している。 大戦により全てを無くした王は、全てを受け入れる事に決めた。 男が僅かに後ろを気にかけた。 小さな影が素早く人波を縫いながら、付けてくる。 近づいてくる影が間合いに足を踏み込むや、否や 左手に持った日本刀に手をかけた。 利き腕が刀の柄に触れた瞬間に、糸状の光が走る。 チンッ 横を歩く人にさえ気付かれずに、刀は鞘に収まりきった。 裾から肩まで一文字に切り裂かれた影の正体が男と対峙する。 頭に動物の耳を生やした少年は幼さの残る目で、凶状の男を見上げた。 切られた服の間からは、半分になった数個のサイフと水色の固形液体が一つ零れ落ちた。 情景のように二人?の周りを人々が流れる。 誰も気に留めない風景を、路上の占い師 仰がテーブルの商売道具から 一枚裏返したカードに当てはめる。 「ザ・ワールド………」 呟いた最高のタロットカードは何を提示するものなのか? 灰色の部屋でジャラジャラと鎖の擦れる音が聞こえる。 制服姿が規則正しく革の靴をならして、近づいてくる。 独房の前で靴音は止み、入り口に鍵が差し込まれた。 「出ろ。LE-V(エルイー・ビィ)」 呼ばれた男は赤毛の短髪を空いている右手でかきあげ、呆れがちに言った。 「いい加減にさぁ、人の名前の発音ぐらい覚えろよ」 繋がれた男の左側からは一つ一つのパーツが擦れ合って出る、それ独自の音が響いていた。 猫のような耳を立たせた少年は、散らばったサイフを急いで掻き集めた。 「………何の用だ?」 冷ややかに言い放つ男に、少年は目をつりあげた。 「見て分かんないの?金目当てのスリじゃん! いきなり切り付けるなんてどうゆう神経してんだよ!!」 「……コソ泥の割に態度がでかいな。服だけでは足りないらしい………」 男が再び日本刀に手を伸ばす。 「うっそでーす。そんな気全然ありませーん」 おどけてみても、男の表情は変わらない。 「最後の獲物、俺にしたこと……不運に思え」 猫耳がビクンと反応する。 本能的に身の危険を感じ取り、少年は最後のサイフと水色のゼリーを口にくわえ、逃げ出そうとした。 「もう遅い」 男が一歩踏み込んで柄を握った。が。下からはらわれた刀は空中を流れただけで、完璧と思われていた少年を捉えてはいなかった。 ぷらーんと少年は宙に浮かんでいた。 せっかく拾った戦利品が再び地に落ちる。 それよりも少年は自分を吊り上げている、男に引き付けられた。 燃えるような赤い短髪と銀色に光る左腕。 着こんだツナギの襟に公安(警察と同意味。むしろ軍隊)の印をつけていた。 「うにゃーっ!ごめんなさい!出来心だったんですーっ!!! いや違う、拾った!そう!拾っちゃって届ける途中だったんだってば!」 「ムリな言い訳どーも……でもオレはそっちの危ないお兄さんに用があんの」 「じゃあ、逃がして」 「別にいいけど、動かない方が身のタメだぜ」 「なんで?」 「あの方、とっくに臨戦体勢にイッちゃってるから」 冷気のような殺気が通りを抜ける。場慣れしたこの国の住人達はさっさと道をあけた。 足元の水色がプニョプニョと逃げる途中に気を充てられ凍り付く。 (きゃっ……!) 動けなくなったソレを跨いで、男は抜き身の日本刀を両手で構えた。 触発されるように、赤毛の男も少年を持っている手とは逆の手………ツナギの袖から光る銀の手に銃を握った。 「この国の公安……しかもメタル・ド−ルが出てくるとはな」 「そんだけアンタが有名人だって事っしょ」 「光栄といっておこうか」 両名になぜか笑みが生まれる。 余裕というより、歓喜に近い表情の二人を特等席で見る少年は死の恐怖を覚えた。 (死ぬかも……) 道の端で、商売道具を片している怪しい占い師が動きをみせる。 「役者がそろったかなーっと」 目だけ出している紫のベールから、ごそごそと何かを取り出す。 その布状のモノを持ったまま、人込みの無くなった一環に近づいていった。 向き合ったままの二人が動く。 先に仕掛けたのはメタル・ド−ルと呼ばれた赤毛の男。 上げていた右手を少年ごと下ろし、もう一丁の拳銃を抜く。 2丁の同タイプの銃口が向けれられる前に、男は切っ先を出していた。 「アチョー!」 横から割り込んだ声と共に、頭上に影が広がる。 地べたに座り込んだ少年の目には網目の空が映った。 「はい………?」 突然すぎる事にフリーズする二人と少年と+αを網目状の影が飲み込んでゆく。 占い師・仰ちゃんが投げた『投網』は見事に大漁を期した。 「なんじゃこりゃー!」 「………」 「ぜってー僕、関係ねぇって!」 (右下がガリガリいってる………) 「大漁♪」 「おい!刀持ってる奴!切れ」 「……人形が命令するな」 「がぶっ!……固いっ!鉄製じゃん、コレ!」 (ひいっ!削れてるー!) 「たい〜りょう〜♪」 ごちゃごちゃ言ってる網を引きずりながら、仰は鼻唄交じりに帰路についた。 4人?は鉄の網に入ったまま、しばらく過ごす事となる。 ◆次ー!◆ |
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