戦争の終結が見え始めたある日、それは起こった。
ビィ(LEV)が戦場に現れ、1年が経とうとしていた頃だった。
メタル・ドール3体の、突然の収集。
何も聞かされず、3番目のサーと、4番目にして初めての女性型メタルのフィス、それに任務から戻ってきたばかりのビィが、ローの研究室に呼び出されていた。
タバコを吸いながら赤い髪をかきあげるビィは、壁にもたれるサーに目をやった。

様子がおかしい。

サーは黒い長めの前髪で表情を隠していた。が、顔を見なくても分かる。
頬を伝う汗と、組む腕が僅かに震えている。
「私達、どうなるの?」
ビィの隣にいる長い髪の女性が呟いた。
彼女もサーと同じような症状をしていた。
実は全員、呼び出しの理由は分かっていた。
ある噂が流れていたのだ。
大戦の終わりに伴い、国は軍の収縮を決定した。
国家の防衛のみの軍備を残し、一切の兵器を破棄するというものだった。
「……大丈夫だって」
彼女を、制作者のローを信じる。
末弟の男は、一つ上の姉を笑顔で見下ろした。
だが、彼女が言ったのはそういうコトではなかった。
ガチャ
ドアが開き、くわえタバコのロー・エクストラが部屋に現れた。
「悪いわね、急に集まってもらって………」
「ロー?」
いつもと雰囲気の違う彼女にビィは眉を潜めた。
彼女は後ろに、サブマシンガンを持ったマシン兵を2名連れていた。
側に寄ってくるビィに見向きもせず、ローは部屋の中央に進んだ。
「聞いていると思うけど、私の口から言った方がフェアね…………今日付けでメタル・ドールの使用禁止。及び、LEは全てフルメタルへの移行が決定されたわ」
「……っ」
目を閉じるビィ。その傍らで、兄と姉が銃を構えた。
「我々が、それを承諾すると?」
「ねぇ、お母さん。嘘だと言って……」
「サー!フィス!よせっ」
「ビィ、お前はいいのか?兵器として作られ、使われ、オレ達には何の自由もなかった!そして必要なくなればさっさと捨てる!
…………ロー博士、あなただけは違うと思っていた」
「お母さんも、私達を兵器として見てたの?」
「…………」
「やめろっ!銃をしまえ!誰に向けているか分かってんのかよっ!」
「ビィ、ごめんね。私達はもう…………!
お願い、嘘だと……」
「……残念だけど、決定は覆らないわ」
静かにローは言い放った。
言葉を引き金に、彼女に拳銃を向ける2人に異変が起こった。
涙を流す4番目のドール。
それを最後に、2人の目が正気を失っていた。
両手で握っていた拳銃から片手が離れ、もう一丁を取り出す。
彼らは虚ろな瞳のまま、2つのトリガーを引いた。
誰を狙っているのか分からない、無差別の銃撃が繰り広げられる。
「エネ、ミー……オー、ル」
「…………」
身動きしないローと背後のマシン兵が、弾幕に晒される。
彼女の左側にいた兵が後ろに吹っ飛んだ。
握りしめた鉄の固まりが重い。
初めて銃にこれ程の重みを感じた。
ガァンッ!
ローに向かった弾丸が眼前で逸れる。
銃声は横から聞こえた。
煙りの立ち上る2つの拳銃を、ビィは横と正面に向けていた。
糸の切れた人形のように、2人のメタル・ドールが倒れる。
一番、驚愕しているのはロー博士だった。
銃声は1発しか聞こえなかった。
その一瞬で飛んでくる弾丸に命中させ、前のフィスとサーを撃ち抜いていた。
(へぇ………)
ビィは事切れた4番目の、自分と最も年の近い女性型メタル・ドールを抱き起こした。
メタル・ドールの心臓は全て金属で統一されている。
他は腕をベースとし、失った場所を変えていくことが多かった。
彼女は女性ということで両足を改良していた。
しかも防弾処理された服の着用を義務づけられている。
両名とも狙う場所は頭部しかなかった。
眉間を貫通され、衝撃で開いたままの瞳をビィは下ろしてやった。
「……ビィ、イーチとセコン。覚えている?」
背後からの声に応える者はいない。
「あの子らがどうして死んだか教えてあげる。危機的な状況に精神が耐えられず、オーバーロードを起こした。………暴走したのよ」
背後のマシン兵を待たせ、ローはフィスを抱き抱える彼の元へ歩み寄った。
「そのコも一緒、私の設計ミスね」
「……設計ミス?何だよ……それ?」
「サーとフィスは、もうずっと前からその兆候があった。このコらは自分の力だけで精神を保っていたの」
「……せーよ」
「メタルドールの最大のメリットは金属化された部位じゃない。それを使用できる神経にあるわ。マシンに近いそれは脳の伝達を完璧に行う」
「……だから」
「つまり、集中さえすれば………」
「うるせえつってんだろっっっ!」
左腕の銃を彼女に向けた。
「アンタ、それ知ってて!……知っててこいつらに伝えたのか?壊れるに決まってるじゃねーかっ!」
「ビィ、サーとフィスはもう壊れてたわ」
「テメェッ!」
トリガーにかけた指に力を込めたが、動くことはなかった。
マシン兵のマシンガンは、ビィの肘から下を銃ごと吹き飛ばしていた。
「くっあぁぁぁぁぁぁっ!」
無くなった腕の傷口を押さえ、悲鳴をあげるビィ。
この時、LEV ビィの左腕はまだ生身の状態だった。
(さっきの力はマグレ?………いや、違う。バラつきがあるだけ………。このコはどのコよりも機械に近い)
「………あんたナメてるの?もしかして私があんただけ殺さないって思ってない?兵器の、機械のあんたを!どうして私が守らなければならないの?」
「っ……ロォ……」
しゃがみこんで、うずくまるビィの髪を掴んだ。
「あんたは人形なの。代わりはいくらでもいるわ。ほら、そこにも」
ローは手の中の赤い髪を持ち上げた。
そこには、自分に向けられた事のない目があった。
痛みを堪えた、冷静で冷酷。そして殺気のこもった視線。
ビィは口で白衣の襟をくわえ、引き寄せた。
「初めて、教えてくれたコトだよな……」

白衣の女性は胸に冷たい銃口が当たるのを感じた。
右手で押し付けた拳銃のトリガーを引き、バランスを崩す彼女を抱きとめた。
表情を和らげるロー。
「あんたが……私から覚えた……のは、コレだけかと………思ってた。ふふ、……うれしいのかな?……わた……し」
マネキュアの塗られた指2本が、ビィの唇に触れる。
タバコを吸うジェスチャーをしたローは、笑顔のまま全身の力を無くした。
涙を流すこともなく、ロー・エクストラ博士を床に寝かせ、ビィは自分に向けられる銃口に反応して、マシン兵を破壊した。
体にたたき込まれた感覚が、痛みと悲しみを越えている。
それはメタル・ドールとしての最も自然な姿なのかもしれない。
息を切らし、廊下を走り抜ける白衣姿の女性は、やっとその部屋にたどり着いた。
ローと同色の、彼女よりも長い髪が乱れてピアスだらけの耳に引っ掛かっていることも忘れ、ララは扉を開けた。
「姉さんっ!」
部屋の中のむせ返る血の惨劇に目を疑う。
バラバラになったマシン兵と、反対側に銃を手にしたまま停まっている2体のLE。
そして、見覚えのある白衣。
部屋の中央で横たわる、自分の姉に駆け寄った。
そばに座る、姉の作りし兵器がギリギリに聞き取れる声で言った。
「オレが……殺した……」
その場で卒倒するLEの5番目をララは大声で呼んだ。
失った左腕からは血が蛇口のように流れ出していた。









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