昨日って月、出てたっけ?

暗い部屋の中、カーテンの閉まっていない窓を眺めながら、男はそんな事を考えていた。
枕許のタバコに手を伸ばすと、ゴーグルや女性物の腕時計、挙げ句に拳銃までと、関係のないものばかり出てくる。
ベッド脇の照明を灯せば1発で見つかるのだが、隣で毛布に包まる相方を起こしたくないという配慮があったため、地道に手探りで目当てのものを探した。
相方と言ってもさっき会ったばかりの名前も知らない女性のこと。
男は、やっと慣れ親しんだ紙の箱を見つけ、一服する。
「明日か……」
毛布から顔を出すブロンドの髪を、裸の男は銀の指先で撫でた。




±   -1

TITLE  LEの命日


城の地下に設けられた、軍の開発施設に銃声が響いた。
その直後、罵声が飛び交う。
「へったくそ!あんた何やってんの!」
「うっせーな、こんな動かないマト狙ってても実戦じゃ役に立たねぇだろうが!」
「そーゆーのは当てれるヤツが言うもんでしょ!ったく、あんたの体は私らとは違って、その気さえあれば当たるんだから」
「配合の失敗してんじゃねーの」
「ムカッ!………そうね、いっぺんバラしてみようかしら?」
「げっ、最悪………脅しかけんなよ」
少年は生身の両手で拳銃を構え直した。
「そうだ。ヘタクソな君に絶対当たる方法、教えてあげよう」
「マジで?つーかあるなら先に言えよ」
怒りマークを浮かべ、女性は少年の足に蹴りを入れた。

銃の練習中の赤毛の少年。
そしてそれに付き添う白衣の女性。
若りし頃のLE-Vと、この主力兵器を生み出した、ロー・エクストラ(Low・Extra)博士の姿だった。


彼女の父はこの国の兵器開発に携わっており、一般兵の犠牲を減らしたいという王の意向を受けて、機械で出来たマシン兵を作り上げた。
ローはその才を受け継ぎ、マシン兵のシステム改正を行いながら、父をも超える一体のドールを作製した。
生物学にも精通していた彼女は、様々な種族をかけ合わせ、遺伝子レベルの構築を行った。
生まれたソレは機械的な神経を持ち、金属部分と完全に融合することができた。
生物のマシン化、メタル・ドールの誕生だった。
それはロー・エクストラの作品、LEと名付けられた。




プリントアウトされた試験内容を見ながら、ローはため息をついた。
肩につくキンパ(金髪)が、頭を抱える手に触れ、ゆれる。
この年、16になった彼は少年時代から続けている性能チェックで最低の結果を更新した。
「……さっき出来上がったばかりのフルメタル(マシン兵)の方がマシじゃない。あんたのその腕と心臓は飾りなワケ?
あーもう!反射レベルは最高なのにぃ!連車機能ばっか上げんじゃないわよ!」
ローはタバコに火を点け、結果の書かれた紙を捨てた。
「………ま、いっか」
「おいおい、いいのかよ」
「……ビィ」
「何だよ?」
「とりあえず、いってらっしゃい」
彼女は笑顔で作戦が書かれた資料を手渡す。
メタル・ドールの最年少が前線投入された瞬間だった。
彼女の名、LEナンバーを付けた者は合計で5人。
ローはナンバーではなく、彼女流の呼び名をつけていた。
I イーチ
II セコン
III サー
IV フィス
V ビィ
国護衛のマシン兵と違い、メタル・ドールは少数で敵地に送り込まれ、全てを破壊する悪魔の兵器だ。
苛酷な現状に5体いたLEナンバー達は、残り3体となっていた。
それでも、誰1人としてローを恨む者はいなかった。
彼女は楽天的で、適当で、本当に科学者かと疑問さえ抱かせた。
タバコが好きで、つねに口にくわえていた。
よく………笑っていた人だった。









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