± +α1−1


 夕飯時、店内をメイド服の女の子がパタパタと走り回っている。
忙しい彼女・スウが幾度となく通り抜けたカウンターでは、数人がダレていた。
 猫のような大きな耳を項垂れて、本日何杯目かの水を飲み干し、
空になったグラスをテーブルに置くと、我慢しきれずに叫んだ。
「ヒッマーっ!」
「ヒマーっ!!!」
 連鎖して、グラスの横で丸くなっていた(普通にしてても丸いけど)水色の液体も声を出す。
「…ありがとうございました。……バル、私それを聞くの何度目だと思ってます?」
 カウンターの向かいに座っていた男は、最後の客を送り出すと 占い用の衣装(ベール)を脱ぎ、目立つ金色の髪を曝け出した。
「……正確に言えば、15回目だ」
 少年から1つ飛ばした席にいる、日本刀を脇に携えた男は細かい訂正をする。
「だってヒマなんだもんっ!」
「私なんて水ばっかり飲んでたから水太りになっちゃったわ!」
「…搾ったげよっか?」
「むしろ穴を開けて下さい」
プス、ちゅー……
 爪楊枝でさされた部分から水が噴水となって溢れた。
「これが本当の水芸だわん!」
「おめでとうございまーす!」
 少年と液体のやりとりを聞きながら、コート姿の男は日本刀に手を伸ばした。

 店のドアが開き、数人のお客が追加される。
すぐさま、スウさんは陽気な声で対応した。
一番最後に入ってきたのは赤い短髪の男。
前の客とは別の様で、一人カウンターに向かってきた。
ツナギの男は開いている真ん中に座ると同時に、両手を上げた。
「……何コレ?」
 ホールドアップのまま固まっている理由は、左から日本刀、 右からバルに伸ばされてゴム状の液体、前からは沸かしたてのヤカン(お湯たっぷり)を 集中して向けられていたからだ。
「遅刻の罰です。はーいアーンしてー」
「集合時間は午後6時、さて問題です。今何時でしょう?カスト君」
「はい!現在、午後10時です!」
「……これでも待たされるのは嫌いでな」
「悪いって。思った以上に時間くっちまってさ」
 ごそごそとポケットからタバコと遅刻の原因を取り出す。
火をつけながら全員の前に誇らしげに数枚の紙を広げた。
「今日付の賞金首のリスト!」
 この言葉に各自は武器(?)を収めた。
通常は賞金首を狩れるのはハンターの資格を持った者に限定されていて、 ハンター協会会員しかリストは閲覧できない。
(仰ちゃん一口メモ!ハンターの資格は国家資格並みです)
「おおっ!すっごいじゃん!どうやって手に入れたの?」
「ちょっとララのパーソナルキーを拝借して」
「LEV……それ犯罪って言いますよ」
「恋人を怒らせていいのか?」
「バレねーよ。つーかララはオレの女じゃありません」
「へー、そーだったんだー」
 バルから返ってきたのは空返事。
もう目はブラックリストの賞金額に釘付けになっていた。
「で、……コレはやっと返せる借りってヤツ」
 LEVはもう一枚データの書かれた紙をタケヒロに差し出す。
受け取った側は折りたたまれたそれをゆっくりと開いた。
「……悪い冗談だ」
 穏やかな口調……とは言い切れず、怒りを押し殺した声でタケヒロは呟く。
「そこまで悪ふざけはしねーよ」
「そうか……ならっ!」
 タケヒロは持っている日本刀を凌駕する殺気をその瞳に宿し、 店内で禁じられている抜刀を行った。
機械の左腕とぶつかり合った刃が金属音を響かせる。
「仇は取らせてもらう……」
「おーい、店内で暴れるなー」
 只ならぬ空気を感じて、接客中のスウさんが嗜める。
反応早く、仰ちゃんは眼鏡をキラーンと光らせた。
「大丈夫スウさん!ケンカになったら外に捨てますから!」
「もうなってんだよっ!コイツ止めろっ!」
「なになに?タケヒロに賞金でもかかったの?」
 興味本位で覗きこんだ白い紙には、 貼り付けられた写真と国籍・経歴などが書かれてあった。
「…ふーん女の人かー…うっわ賞金すっげ高い!トップじゃん」
「キレーな人ねー、でも……」
「タケ、知り合いの人ですか?」
 あえて誰も口に出さなかった最後の欄。
「お前が……カナを殺したのかっ!?」
 NEMA KANA と書かれた資料の最後には、2週間前に死亡と記されていた。
「オレじゃねえよ!この時期は地下にいた!」
「…ふざけるなっ、この国にメタル・ドール以外で彼女を殺せる奴がいるかっ!!!」
「タケ、LEVは動いてませんよ。私が保証します。
 犯人については、あなたの方が詳しいと思いますよ」
仰は死亡報告書の紙をタケヒロの目の前にかざした。
賞金受け取り者名には……SINGOとあった。
タケヒロは絶句する。
たった1枚の紙に、見覚えのあるスペルが2つも綴られていた。



 その日の深夜、2人連れが城の門の前に立っていた。
バルと同じぐらいの少年と、従者のように寄り添う長い髪の女性。
月明かりしかない暗闇では顔を確認することはできない。
城の正面に掲げられた、水色のステンドグラスをじっと見上げている少年は、 微笑みを湛えたままの薄い唇で囁いた。

「もう一度、君に日の光を見せてあげたいんだ。
 君が好きだった……あの、赤い夕陽を。
 待っていてねボクのお姫様、すぐにそこから出してあげるから……」
 
 月光に写る水面を思わせる蒼いステンドグラスには、美しいマーメイドが描かれていた。




 黒いコートが土の道を踏む。
右には木々、左には川という緑豊かな地形が広がっている道を男は進んでいた。
歩くたびに揺れるコートは暫くして、止まった。
視線を180度回転させると、つっこみ所満載で逆に無言になる。
 道端に落ちている水色の石。(顔ついてるし!)
 その横で寝そべっている少年大のヒョウの毛皮。(不自然すぎ!)
 崖からぶら下がっている銀の手。(命がけかよ!)
 頭と両手に木の枝を着けて無表情で道の端に立つ金髪の男。(それ、隠れてない…)
「………」
 心でコメントを加えて、タケヒロは足早にその場を立ち去ろうとした。
「ヒドイわ!ツッコミは無しっ!?何か言ってよぉーっ!」
「せっかくヒョウを持ってきたのにさー(パ○ッたヤツだけど)」
「つーか助けて……」
「不思議ですねえ。どうして分かりました?」
 好きなこと言いまくり、な彼らに脱力するタケヒロ。
ため息をついてから口を開いた。
「……何をしにきた?」
「だってヒマなんだもの」
「それに気になるじゃん。タケヒロの弟って」
「弟じゃない。弟子だ」
「弟子!」(昆布風味になってます)
「それはダシじゃん」
「…落ちるって」
「自分の弟子が自分の師匠を手にかける、ですか。シビアですねぇ」
「ご期待のところすまないが、絶対にアイツじゃない」
「なんで言い切れるんですか?」
「アイツには……シンゴには剣を教えていない」
「それで弟子って言えるのかよ?……いい加減、誰か助けろ!」
「しょうがないなー……そんな足場のないトコ降りるからじゃん」
 今だ片手だけで体を支えていた赤毛の男に、バルは手を伸ばす。
それを助けないで、声だけかける仰ちゃん。
「気をつけて下さいね。結構、高い崖と、結構、早い流れの川ですからー」
 その言葉に助けるのをやめようとする少年だったが、 一瞬早くツナギ姿の男はバルの手を取った。
 少年の力で大人の男を支えられるはずもなく、銀の左手が切れた途端に道連れとなりました。 悲鳴を残して、結構高い崖から落ちていく2人。
「左手を離しちゃダメじゃん!」
「滑ったんだよ!ワザとじゃねえっ!」
「バカーッ」
「バルーけっぱれーって……私もがんばれっ!」
 覗き込んでいたカストを仰ちゃんは後を追わせた。
瞬間、数十メートル流されていく2人。
(液体は区別つかず!)
「わーもう見えなくなりました」
 ちらっと横目で見る仰に、タケヒロは速攻で首をふった。
「……俺は徒歩でいい」
「早いですよ」
「歩かせてくれ」
「でも、早いですよ!」

 眼鏡越しの瞳が多くを語っておりました。
(歩いていったらどれだけかかると思っているんですか!
 ぜっっっったいに、今日中に帰ってくるんです!
 24時間もスウさんに会えないなんて我慢できません!
 禁断症状でたらスゴイんですよ?
 どうなっても知りませんよ!)
「……というわけで」
「普通に話せ」
「わあー足が滑ったー」
 棒読みのセリフと共に、仰は強引にコートの裾をつかんで川に飛び込んだ。
彼らの向かう先は、タケヒロの故郷。
カストの国を中心に北にある砂漠とは方向も環境も正反対で、 国境を越えたころには緑も広がっている。
丁度川に落ちた(入った?)のはこの当りである。
ちなみに歩いていくと常人なら10日以上かかります。(当社比)
 ※タケヒロは歩いてきたけどね。
 流されること数時間、どれだけの距離を進んだのか計算したくもなくなる。
重くなった服を引きずり、見合う大人3人。
さながらバミューダ海峡?(魔のトライアングルさ)
彼らは川のカーブの所に出来た川原に流れ着いていた。
川の反対側は切り立った絶壁、容易に脱出できない状況が苛立たしさに拍車をかけた。
「それで、目的地には着いたのか?」
「こっちの質問に先に答えろ。他2名はどうした?」
「1人はあきらかにオレのせいじゃねーぞ!あっちに言えや!」
「心外ですねー、予定をものすごく早く繰り上げてやったのに……」
「仰、最初から激流下りを狙っていただろう」
「偶然ですよ。ぐ・う・ぜ・ん。誰かさんが川に落ちるなんてバカな事しなければ 起きなかった事故です。
 無事だったんですから、いいじゃないですか。水に流すって事で」
 笑顔できれいに落ちをつける仰ちゃん。
相変わらず毒気を抜くのは得意らしい、分かんない様に毒は吐いてるんだけどね。
「まいいや。カスト一緒だし溺れねーだろ。案外先についているかも知れねーしな」
「そうですね。とりあえず行きましょう!」
「………」
「タケちゃーん、何かご不満っすかぁ?」
「…1つ問題がある」
「問題?」×2
「俺の国はお前らの所のように曖昧な入国管理じゃない。 俺は問題ないが、カストとLEVはまずい。
幸い、カストは目立たないように進入できたが……」
「はあ?じゃあオレも泳いでいけってか?」
「残念な事にここはもう領地内だ」
「今から出て行っても手遅れですねー。おめでとう!完全な密入国でーす」
「うれしくねー、つーか仰はいいのかよ?」
「私、国籍ないです。国になんて縛られてませんから」
 どんな場所もフリーパスな人。
仰はさらっと秘密を1つ明かした。いや謎が増えたのかな?
「つまり特例な男と、事故を装った少年と、目立たない(分からない?)液体はパスしたが、  お前はダメだ。名前が売れすぎている」
 完璧な人間の目を侮ってはいけない。
各国を飛び回って裏の仕事をしている集団なのだから、一見すればすぐにバレるだろう。
LEVが他国の兵器だということが。
「素朴な質問、オレどーすんの?」
「方法がないことも、ない。少しの間……」
 タケヒロは話しながら口の端を持ち上げた。
珍しい彼の微笑を目の当たりにし、嫌な予感がする赤毛の男は後ずさった。
静かに日本刀は抜かれる。
「……死んでいればいい」
「なんでそーなんだよっ!」
 光を反射し、煌いた刃は深々と胸元に突き刺さった。
日本刀から持ち主の手が離れると、刺さったままの体は仰向けに倒れた。
「それでは、出発しましょうか♪」
 仰は動かなくなった男を引きずりながら、普通に絶壁の崖を歩いて上った。
彼は重力にさえも束縛されていない?

 ここから更に下流に下った場所で、少年が1人釣りをしていた。
短い黒髪に幼さの残る容姿からは15歳ぐらいの年齢と見て取れる。
彼には大きいサイズのコートを羽織って、側には日本刀を置いてあった。
 キリキリキリ、
 釣竿に重みを感じて、少年は糸を巻き取り始めた。
「うっわ!重い!メチャメチャ大物?今日のゴハンだ!絶対逃がさないっス!」
 上まで巻き上げてから、吊り上げたものに首をかしげた。
動物の耳を生やした子供と、その子に巻きついている水色の物体。
「…夕飯はカレーにしよっと」
 今日の収穫を見て思ったのかは定かではない。




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