TITLE The woman who respects

 持っていた物と、これから手に入れる物。
大切な物はどちら?
まだ見ぬ物への好奇心と、持っていた物への独占欲。
思い入れはどちらも強いはず。

人により、様々な答えのある中、
この物語の主人公……彼の選択は?



 激しい銃撃戦の繰り広げられる市街地。
逃げ惑う人の波を逆流する一人の少年がいた。
黒のTシャツに黒のパンツ。
いつも通りの格好をしている少年は長めの前髪を揺らして、よく知る街を進ん だ。
多くの住民が自分に向かって走り去っていく目の前で、人形を抱く少女が石に躓 く。
「……大丈夫か?」
 倒れこむ少女を受け止め、立たせてやる。
今にも泣き出しそうな少女を慰めるため、落とした人形を拾ってやった。
「……名前は?」
「カナ……」
 人形の名前なのか、少女の名前なのか分からなかったが、
「良い名だな。……さあ、早くいけ。ここは戦場になる」
「お兄ちゃんは?」
「俺はその為に来たんだ」
 何度か振り返りながら走る少女の先に母親らしき女性が見えた。
人の姿が減っていくにつれ、幼さの残る少年の顔は、厳しさを増していった。
左手に携えている日本刀を鞘から外す。
人影のなくなった大通りに、銃を構えた軍人が現れた。
少年を見つけた途端、数人の小隊ではあったが、軍人全員が持つ火器を向けた。
「武器を捨て、降服しろ!」
「……降服だと?残念だが、俺はそんな物は要求しない。
 人の国に土足で踏み入るようなマネをして、生きて帰れると思うな」
 殺気をはらんだ声で言い切る、14歳の少年に軍の隊員達は動きを止めた。


「おっかえりー!」
 静かな道を歩く少年、タケヒロは自分に手を振る姿を見つけた。
街から外れた森を抜け、ひっそりとたたずむ街の入口に、長い髪の少女は立って いた。
この国の者さえ出入りを禁止されている秘密の街、
隠れ里のような趣のここは彼の生まれ育った場所だった。
「国の英雄さまも大変ねー」
「帰ってたのか……」
「敵さんもカワイソウ。わずか14歳でこの国の最高守り役・タケヒロの相手と なっては、
 どんな最新武器を持ってきても、紙の軍隊と同じだもの」
「……カナ」
「ニュース見た?あんたの事ばっかやってたわ。チョー有名になったねー」
「カナ、止めろ。……わかっているんだ。俺がこうしていられるのも、
 全て、影に徹する人がいるからだ。あなたのようにな」
「おおー!偉いねー、随分素直に育ってくれたもんだ!母さんはうれしいよ〜う う」
「……育てられた覚えもないし、母じゃない。…そろそろ中に入らないか?」
 タケヒロは泣きまねをする彼女を否定してから、立ち話をカットした。
 この国は独自の軍隊の他に、古くからある一族を抱えていた。
現存している完全な人類。
その身に宿す血を外気に曝す事ない彼らは遺伝的に力を得ていた。
才能とも呼べるその力を、国は他国に取られることを恐れ、ある契約を交わし た。
一族の血を完全に保護し、優待すること。
彼らがどのような仕事を受けても一切の制限を加えず、加入しない、
望むなら存在すら隠し通そうという申し出に、
自分達の血脈と仕事に誇りを持っていた一族は承諾し、変わりに国をガードする と言った。
(莫大な軍事予算並みの代価と引き換えに)
 タケヒロは大戦前から代々受け継がれて来た守り役の一人で、
カナはその守り役の対となる、依頼と報酬で暗殺を請け負う影の存在。
戦争の最中、一族の名を広めたのは影の人達だった。
 5つ上のカナは、タケヒロの剣の師匠であり、また許婚と決定されていた。
長い美しい黒髪と、童顔の顔から想像も付かないが、一族でも1、2を争う力を 持っている。
戦争の激化した現在、影の人物は他国間を飛び回っているので、会うのは1年ぶ りになっていた。
 街の中に進みいく2人の背後では、気配を殺してその姿をじっと観察する視線 があった。


 風呂上りの姿(上半身裸!マッパではない☆)で、自分の部屋のベッドに横に なるタケヒロ。
傍の窓に写り込む人影に思い切りビクついた。
下から顔に懐中電灯を当てて、ぼんやりと窓の外に立っている黒髪の女がいた。
「…うぉうっ!?……何やってんだ?」
「……フフフフ、夜這いでーす」
「をい」
 ガラスの窓をあけ、陽気に笑うカナを確認する。こんなことをするのは彼女し かいないが、
「うっそぴょーん。とりあえずちょっと来て。話あるの」
「…ここ2階だが、どうやってそこに居るんだ?」
「壁に刀刺してそこに立ってるの」
「……人の家に勝手に刺さないでくれ」
 服を持って、まだ乾いていないショートの髪から水滴を飛ばしながら、 壁に刺さっている日本刀を抜いて、下に下りるカナに続いた。
 服を着るタケヒロを待ち、切り出す彼女。
「ごめんねー、寝るトコだった?」
「…子供扱いはもうしないでくれ。12時に寝てない」
「すみません」
 14歳の少年に説教される19になった女。
「……で?どうしたんだ?」
「えーとねー。実は……」
「実は……?」
「私さー、抜けるわ」
「は……?」
 突然の発言に目が点の少年を前に、カナは続ける。
何でも任務先の出先で運命的な出会いがあったんだと!
「…でねでね、その子がすっっっっごいカワイイんだってば!」
「ちょっと待て、誰の子?」
「だからー、その人の子供」
「子連れ?」
「うん。まだやっと歩けるぐらいなんだけどねー。
 あの耳が可愛くて可愛くて、きゃーってカンジなんだよねー☆」
 少年はテンションの上がる彼女の話を平坦に聞いていたが、
不意に表情を強めたカナに、きちんと向き直した。
「……あの人さ、戦闘苦手なの。だから私が守ってあげないと……。
 あの人も……あの子も!絶対守るって決めたの。
 ほら、ここ。外の人入れられないじゃない。
 だから私、抜けるね。親が勝手に決めたっていっても一応、アンタ婚約者だし ね。
 一言、言っとこうと思ったんだけど」
「………」
「やっぱ、怒ってる?」
「……今日、発つのか?」
「早いほうがいいかと思ってね。…追っ手もかかるだろうし」
「待ってろ」
 タケヒロは部屋に駆け戻り、また窓から飛び出してくる。
「……これ」
 手に持ってきた日本刀を彼女に差し出す。
「わーい!くれるの?……って貰えるか!何考えてるの?それ一族の家宝ってや つよ。
 あんたの腕を見込んで、ボスが預けたヤツでしょ!?」
「ただじゃない。そっちのと変えてくれ」
「…ダメ。これは血を吸いすぎてる。守り役のタケには似合わないよ。
 それにとっかえてもバレるに決まってるし」
「俺はお前の後を継ぐ。それならいいだろう?」
「冗談っ……じゃないのね。はぁー、国の人なんていうかなー。
 英雄が一転して、暗殺者ですかっ!影、いっちゃいますかっ!!
 依頼によっては自国民がターゲットのダークサイドへGOですかっっっ!!!
 って明日、大騒ぎになっちゃうんだろうなー」
「……どうするんだ?」
「私、あんたには日の下にいてほしかった」
(こんなに優しい君には影は無理だよ)
「そいつらを守りたいのだろう?」
「うん」
「……だったら、この刀の方がいい。一族の護り刀・風月。
 やるわけじゃない。いつか、どこかで逢ったら……その時返してくれ」
「……うん。タケ」
「………」
「ありがと。……ムリしないでね」
「ああ……」
「体に気をつけてね」
「……ああ」
「風邪引かないように」
「カナ……」
「それからね」
 相変わらずな彼女にため息をついて、ちゃんと呼ぶのは初めての名称を口にし た。
「師匠」
「は、はい!何でしょう?弟子くん」
 ぴっと背筋を正す彼女に、立場逆転してるなーと思いつつ、
「後のことは任せて下さい。追っ手も俺がなんとかします。
 少しは自分の弟子を信用して下さい」
 少年と感じさせない瞳をまっすぐに向けるタケヒロを、彼女は優しい笑顔で包 み込んだ。
「……わかっ……」
ドォオオオオンッ!
 背後で、炎が上がる。
突然の爆発に、同時に振り返る2人。
爆風の中に浮かぶ人影を見逃さず、日本刀を抜くタケヒロの動きを、
カナは片手で止めた。
「待って。私にさせて」
「…断る。恐らく街からだろう。つけられていたのに気付かなかった俺の責任 だ」
 人知れない里の場所を外部の者が見つけられるはずはない。
カナは自分のミスを自分で粛正したいタケヒロから刀を取り上げると、
その美しい笑顔を消した。
「……これが最後なんだから」
 刀を鞘に収められ、顔つきの変わった彼女にタケヒロは反抗することができな かった。
「………」
「さーて、出ておいで。怖いってわけじゃないでしょ?」
 木の頂上に姿を上らせた侵入者は、2人を肉眼で確認すると大声で笑った。
「ははははっ!お噂の暗殺者集団の里に忍び込んでみれば、女と子供だけか?
 笑わせる!他の者達はどうした?恐れをなして隠れているのか!」
 見るからに自信過剰な男は自身の茶色の髪に上げていた暗視スコープを掛け直 し、
両手に拳銃を握った。
姿からすると、どこかの国の兵士のようだ。
男が起こした爆発はもう収まり、辺りは再び暗闇に戻っていた。
 大戦中の現在、一族のほとんどの者は外で活動していた。
忙しいということもあるが、暮らす人が多ければその分、里の場所がバレる可能 性も増える。
この時分、里に残っているのは2人と一族の頭だけだった。
「…あんたの相手は私で十分」
「なめられたものだ」
 両腕の拳銃をカナに向け、男は乱射する。
軽く身を翻る2人にはこの暗闇もハンデにはなっていないようだ。
互いの動きを考え、殺気だけで銃口の向きを読み上げる。
銃に込められていた弾丸をすべて無くし、男は暗視スコープを外した。
穴だらけの地に無傷で立つ2人への怒りで唇を震わせている。
「……こんぐらいの力で良くここに来る気になったわね。
 恨むなら自分の上官を恨んでね」
「生憎、オレは傭兵でね」
「……同業者か」
「そうゆうことだ。金で人殺しをしている貴様らには負けるがな」
 負け惜しみに聞こえる男の言い分を彼女はさらりと流した。
「別に戦う理由なんてどうでもいいけどね。ここの場所を知った者は生かして帰 せないの。
 ごめんねー」
 死んでね!と仕事用の笑顔で言い放つ彼女。
タケヒロは自分に見せる笑顔とは全く違う彼女の雰囲気、そして暗殺者として影 を歩いてきた者の殺気を
直に感じて、凍り付いていた。
「死の匂いの漂う里、か。……だが、オレは死ぬつもりはないっ!」
 侵入者は手に取り出したボタン式のスイッチを押した。
ドンッ!
 カナの右の地面が吹き飛んだ。
眉を寄せるタケヒロの傍ら、彼女は瞬き一つしていなかった。
男は口元を緩め、見下ろす彼らに哀れみの言葉を投げた。
先ほどの悔やみは笑みを必死に殺していたものだったようだ。
「この一帯に爆弾を埋め込ませてもらった。大人しく剣を捨て、従うなら命だけ は助けてやろう。
 女を殺すのは忍びないしな」
「ちぃ……」
 舌打ちをするタケヒロ。
(さっきの爆発は試しで、銃撃はここにおびき寄せるためか)
 思わず柄を握るタケヒロに感応して、男は爆弾を反応させた。
「っ……!」
 数発の爆風に体を包まれた少年は、体ごと吹き飛ばされ、カナから引き離され る。
「形勢逆転、かな?」
 木から飛び降りた進入者の男は、タケヒロの握り締める日本刀を蹴り飛ばし、 倒れている少年に新しい銃を向けた。
「さすがに仲間さえも見殺しにはできんだろ?」
「………」
 自分の日本刀を捨てる彼女に、タケヒロは身を起こして声を荒げた。
反射神経の賜物か、かすり傷程度の外傷しかおっていない。
「カナッ!」
「…タケ、よく見といてね。一回しかやらないから……」
 蹴飛ばされた風月を手にするカナは、その刃をためらいなく抜いた。
「女!こいつがどうなってもいいのかっ!?」
「甘々だねー。あんたも傭兵気取ってるならプロ意識見せてよ。
 武器を向けた時点で、ここは戦場になったの。人質?女?そんなこと関係ある の?
 強い者だけが生き残る……いつだってシンプルでしょ。この世界は」
「強がるなっ!」
 周りを爆弾に囲まれ、人質を取られ、身動きできないこの距離で彼女が出来る こととは……。
右手と左手に持つ、銃とスイッチを動かす男目掛け、カナは刃を屠った。
円弧状に走った光は、ことを起こす寸前の男の両腕をすり抜けた。
 次の瞬間、両の手は男から離れた。
「ぎゃああああああっ!」
「みっともない声出さないでよー。男でしょー?」
「腕がっあああっ!オレの腕っ…」
「大丈夫よ。もう痛みは感じなくなるからね……」
 自分の刀を拾って、二刀流の、本来の型になったカナは優しい笑顔に戻ってい た。
二つの風を同時に放ち、クロスする真空が男は分断した。
「あっ!2回やっちゃった!」
「カナ……」
「タケヒロ、今のがエアブレード。これがあなたに教えられる最後の技だぴょ ん」
「……了解した」
「忘れないでね……」
 まるで自分のことを言う彼女は、タケヒロの日本刀をバイバイと振りながら、 闇に消えていった。



 明かりのない部屋で、ソファーに足を組んで偉そうに座る男がいた。
暗い部屋のため、シルエットしか見えない。
「そちらの言い分は分かった。
 お前がカナの後に入るということだな?」
「はい。ですから……」
「タケヒロ」
「……はい」
「個人の勝手で里を抜けたあの女へ追っ手をかけるな、とは少々過ぎた願いだと は思わんか?」
「………」
「それにお前、いくつになった?」
「14です」
「たかだか14のガキに影の仕事が果たして勤まるか?お前の考えている以上に …」
「ボス……」
 一族をまとめている男の前に跪いているタケヒロは、脇に添える日本刀に手を かけた。
それに気づき、高らかに笑うボスと呼ばれる男。
「ふははははっ!自分の意思を通すためには俺にさえ刃を向けるか!
 気に入った。お前は今日から影の一員だ。
 その名も、髪の一筋さえも一族に奉げ、一族の為に生きよ。いいな?」
「……了解」
 一礼し、場から退がるタケヒロは、青に黒を混ぜた色のコートを羽織ってい た。



 長いコートを翻し、靴音だけが響く廊下をタケヒロは進んだ。
手には血の滴る刃を握り締めて……
不意に廊下の角から兵士の男達が現れた。
前を塞ぐ格好となった軍人を、タケヒロは感情を殺した目で見つめた。
「……道を空けろ。貴様らに用はない」
「怯むなっ!相手はたった一人だ。……構え!」
 一斉に銃を向ける男達に、仕方なく刀を返す。
 数分前、彼はこの国の王の寝室にいた。
今は、まだ暖かい死体が横たわっている。
「死んだ主の後を追うか、それもいいだろう」
 2年前に師の女性から受け継いだ技の構えに入るタケヒロ。
たった一振りで、護衛の部隊は壊滅した。



 いつしか長かった大戦に終わりを告げ、季節が巡ってもここは変わらない。
平和といってもまだ名ばかりで、混沌とした世界は続いている。
おかげで数年たった今でも、因果な商売はこの一族の糧となっている。
 初めて訪れた街を男は歩いていた。
少年のころの面影をわずかに残し、成人した男は人込を一段高い目線でゆっくり と進んでいた。
数多くの種族が行き交い、道端の占い師は店を出すにぎやかな時間。
日本刀特有の鍔なりをさせる刀を見やると、懐かしい笑顔が思い出された。
いつかどこかで、出会うことを信じ、自国を抜け出せる唯一の仕事を続けている 男。
 タケヒロは歩を止め、空を仰いだ。
コートの裾を羽ばたかせる風に、一度はその瞳を閉じたが、
自分に向けられる視線にタケヒロは反応した。



 人と人が巡り会う。
繰り返しなのか、始まりなのか……。
思い出の人と、出会う人。
自分に必要な人はどちら?
大切なのは……?
もし選ばなければならない時が来たとしたら?
いつか来る選択の日まで……あと少し。



 斬りつけた影は、目を丸くしてタケヒロを見上げていた。
特徴の動物の耳を風に吹かせて……。








レヴくんから奪った短編でタケヒロ編です!
くけけ☆キャラアップはまた後日に……(脱兎)



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