± -4
TITLE ネコと雪と月と花

 にゃー
 にゃー
 にゃー
 路地裏で、野良猫たち群がっている。
両手を紙の買い物袋で一杯にした少女は、鳴き声に誘われて道をそれた。
 うにゃー、にゃー、にゃー
 黒猫、白猫、色々な種類の猫の中に、金色の光。
「珍しいネコ」
 少女は呟く。
野良猫達に取り囲まれていたのは、金の髪をした男だった。


「あ、どうも」  眠っていたらしい男は、少し照れながら立ち上がった。
かなり上から少女を見下ろしていると、不思議な違和感があった。
(何故に看護婦さんが買出し?)
 少女はナース姿で、両手に荷物を抱えていた。
「じ〜……」(男を見上げる少女)
「えーと、怪しい者じゃないですよ。この通りで占い師をやっている、仰と申します」
 名刺を差し出して、営業スマイルの仰ちゃん。
こぼれる歯が眩しい。
「じぃ〜……」
「こんな所で寝ていた理由ですか?夜行性なもので、日の光に弱くって」
「じぃぃぃぃ」
「あの〜?何用でしょう?私の顔に何か付いてますか?」
「……ネコじゃないのね」
「え?」
「じゃあいいの。バイバイ」
 ひらひらと後ろ手に手をふって、唖然とする男を残し、少女は帰路についた。
 にゃー
仰は足元に擦り寄った一匹の猫を抱き上げた。
「何?スウ?……今の彼女の名前ですか?」
 にゃー(=^・^=)
返事をする猫。
会話してる?

 それから数日間、仰は毎日スウさんに会うこととなった。
昨日、彼女に会った時間帯から占いの店を出す事にしたのだ。
 いつも同じ時間にスウさんはこの道を通っていた。
でも、いつも違う服装をしていた。
「…今日がメイド服で、昨日はチャイナ姿。
 その前がたしかセーラー服でした。(背中に機関銃しょってました!)
 彼女って何者ですかね?」
 困惑ぎみに、仰はスウさんの職業を考えていた。
けっこー目立つ格好で、大通りを闊歩していくスウさん。
それは仰だけでなく、いらん目まで惹きつけてしまう。
案の定、数人の男たちに絡まれていた。
(出番ですね!)
 嬉しそうに立ち上がった仰は、占い衣装のベールを脱ぎ捨てた。
どうやら仰ちゃんのハートには矢が刺さっている様子です。
細い道を少し入った所に連れ込まれたスウは、壁を背にして、
男たちの動向をただ見つめていた。
「…そんな格好でドコの店にいるの?」
「ねえ、ちょっとサボってさあ、オレ達と遊んでいかない?」
「………」
「大人しくしててよね。あんま手荒な事して、折角の衣装がやぶけちゃったら
 もったいないでしょ?」
 1人の男は彼女の顔の前で、爪を長く伸ばし始めた。
「メイド服の時にナンパしなくてもいいと思いますよ」
 背後から金の髪の男が現れた。
「マニアにしか見えませんよ」
「誰だテメエ?」
「えーっと、仰ちゃんだっけ?」
「覚えててくれたんですかっ!?感激です!」
「私、1回顔を見た人は忘れないから」
「気になったからじゃないんだっっっっ!!!」
 ショックの余り、座り込んで地面にのの字を書いている。
ナンパ軍団と同一の扱いをされた事に涙しています。
「なんだコイツ?」
「こんな奴、ほっといてさあ、俺らと……」
 長く鋭い爪が髪に触れた。
スウさんは表情を僅かに曇らせた。
「仰ちゃん、コレ持ってて」
 両手の荷物を天高く投げると、笑顔を仰に向けた。
仰ちゃんだけの視界には、花舞ってます。
光入ってます。
少女漫画の景色じゃないバックです。
「はいっ!分かりましたっっっ!!!!!」
 瞬間、立ち直って静かに落ちてくる紙袋を見上げると、
そこに人影が舞った。
 ドサ……
 受け取った荷物と同時に、落ちてくる仰を抜いた男全員。
横では、手をはらうスウさんがいた。
瞬殺です!
「荷物ありがとう……」
「一体、何をしたんですか?」
「片付けたの」
 荷物を受け取りながら、汗1つかいていないスウさんを見て、
心の底から関心する仰ちゃん。
「失礼じゃなかったら答えてくれますか?貴方は一体何者ですか?
 気になって気になって、夜も眠れません」
「…なんだか愛の告白みたい」
「あははははははははははは」
「笑って誤魔化してるでしょ?」
「…はい。言ってて恥ずかしくなりました」
「人に尋ねる時はまず自分からじゃない?」
「私ですか?名刺渡したと思いますが……」
「占い師はウソ。その金の髪はウィッグじゃないでしょ?」
「金髪なら結構いますよ。ほらそこでのびてる方も」
 転がっている男の1人を指差す。
「じゃあ、その金の翼も……?」
 薄く開かれた瞳に、険しさがよぎる。
頬を流れる汗が、仰の緊張感を伝えてきた。
彼女には自分の本当の姿が見えているのか?
自分の正体を明かせば、彼女に会うことはもう出来ないだろう。
国という物に関与してはいけない身分。
200年前にこの地に招かれ、本当の姿を隠して国を陰から支えてきた人物。

 遠い昔に交わした約束が思い出される。
「アナタがここにいてくれるなら、滅ぶことのない身を呪わなくていいかもしれない」
「ウォータ、私は国や組織に属することは出来ません。
 私たちの契約を知らないはずはないでしょう?」
「…仰ちゃん、薔薇はその名前を変えても、美しい香りは変わらないよ」
「シェイクスピアでしたっけ?」
「アナタの金の光がこの国にあるだけでいい。
 ここにいて欲しい」
「……唯一無二の親友から、そう言われて断れませんよ。
 リトル・マーメイド、あなたの国は私が守ります。
 我が一族の契約がこの身に降りかかるまで……」
 のちに初代ウォータと呼ばれる、水色の肌をした人魚は優しく笑った。

「私は……」
「いいよ、この前教えてもらったから」
「スウさん……?」
「仰ちゃんが私の名前を知っているように、私もあなたの事は聞いているの」
 黒い子猫が頭に浮かぶ。
スウさんも会話出来るようだ。
猫語、流行ってる?
「私の全部を見せてあげるから、半分もってくれる?」
「あっ!荷物ですか?全部持ちます!!!」
 身軽になり、足取りの軽いメイドさんは、自分のお店に向かって歩き出した。
ヒラヒラゆれるスカートの後姿に、仰ちゃんは言葉をかけた。
「私は、貴女の為にこの国を守ってもいい……」


 その日以来、スウさんのお店には特等席が設置された。
いつもの席に占いの為に座っている仰ちゃんの隣で、
スウさんは花瓶に花を飾っていた。
「お花スキですねー」
「私が、一番美しいって思っている物は Snow, the moon and flowers. なの」
「キレイにまとめましたね」
「仰ちゃんは?」
「私にとっての雪月花ですか?……それは秘密です」
「仰ちゃんって秘密主義だね」
「あははははははっ」
 仰ちゃんの得意技、笑って誤魔化せ。



 遠い過去に、世界の頂点に達した種は、国を持たず、
国に属してはならないという、世界的な契約を自らに仮せた。
持つ力の凄まじさは、国1つを左右する程のものだったからだ。
それは、彼らドラゴンが群れで生息しない理由の1つでもある。

 200年前、最強の力を持った竜族の長は、突如その姿を消した。
長き時を生き、空間さえも自在に操る彼。死ぬことは考えにくい。
現在も彼の消息は謎のままだ。

眩いばかりの金の羽根をもった、ドラゴンだったという……。











レヴくんから奪った短編で仰編です!
本当はかなり前に頂いてはいるのですが、ネタバレになるかもという事で保存させていただいてました。さあて、仰ちゃんの正体はいかに!?フフフフフ。(怖)



★★★★★

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送