TITLE 風の中の名。


君が共に生きると言った。
家族も国も信念も捨てて、
共に、生きると。

嬉しい。素直にそう思った。
混沌の世界を生き抜く力も、経験も、私には無かった。
君が居てくれるだけで、どれだけ心強いか。
君が居てくれるだけで、どれだけあの子が喜ぶか。

不安定な世の中、あの子1人、私には支えられない。


けれど、本当に?

君の国は、君の血は、
私とは比べ物にならない程、高い価値。

現存する数少ない完全な人。
その血脈が宿す、絶大なる効果。
君の名を、知らぬ者はいないだろう。

全てを捨てて、共に、生きる。

君の意思だ。だが、

全てを捨てて、国の加護さえ失った、君。
暗殺者としてブラックリストに乗る、君。

本当に、これでよかった?

私は何も出来なかった。
どれだけ望んでも手に入れられなかった、安全な生活の場。
それを私達に提供し、姿を消した君。
私は、引き止める事さえ、出来なかった。

私は、ただ守られているだけの、君の足枷。

君が居てくれるだけで、私は幸せだった。
君が居なくなり、やっと分かった。

君は私が守ろう。
君が恐れる全てを、受け入れよう。
君と共に、生きる覚悟を持とう。

君に伝えたい。

私は君を探した。

君を追うハンターに紛れ、情報を得て、君を探す。
素人の私に出来る、唯一の道。
あの子は、あの国に置いて来た。
可哀想だが、大丈夫。
あの子は私より強い。
早く、君に会わせたい。

何年か経ち、君の噂さえ聞かなくなった。

君に伝えたい事が、増えていく。

あの子に、友達が出来たみたいだ。
元気で、いるみたいだ。
君の知っているあの子は、まだ言葉も話せなかった。

会わせたい。

君と、あの子を。
きっと、君を覚えている。
君はいつも、あの子を見る時は笑顔だった。
忘れないだろう。
あんな優しい微笑み。
私も、今もこんなに、思い描ける。

…私は、やはり弱い。
君に会いたくて。
君に伝えたくて。
自分の名前を、流した。

僅かな情報だったが、君は直ぐに反応をくれた。

会える。やっと、伝えられる。
そう思っていた。

あの子のいる、あの国の、街外れにひっそりと建つ館。
高名な魔道士が住んでいた所らしい。
今は誰も居らず、荒れ放題となっていた。
人の来ない、待ち合わせに都合のいい場所。

逸る気持ちを抑えられず、時間より早く着いてしまう。
ゆっくりと入口の扉を開けた。

待ち構えていたのは、数人の男達。
私は以前に入り込んだ世界を、後悔した。
彼らは、ハンターの称号を持っていた。

私の流したNEWSに、食いついたらしい。
彼らもプロ。君と情報を結び、ずっと私をつけていた。

私は、君の足枷。

君に懸かった賞金は、国の1つも買える額。
ハンター達も道徳心を捨て、君を狙う。

君に敵う者などいない。
誰もがそう言っていた。
その君が消えた理由。
君は、私達に被害が及ぶのを、恐れていた。

今度は、私が、君を守る。

私は、隠し持っていた、君が愛用していた武器を手に取った。
ただ、君を守りたいと思った。殺気が走るほど、強く。

後ろから、風が吹く。
懐かしい、風。

空気を、扉を、人を、引き裂く、風。

斜めに傾いていく視界は、形を無くして行くハンター達を捕らえた。
君に、敵う者などいない。
殺気を持つ者に、君は容赦などしない。


ずっと、君に伝えたかった。
まだ、言っていなかった、たった一言。

家族になろう、と。


崩れていく世界で、
恋焦がれた白い鳥を、見た。


放った風が鳴く。

女は、眉を顰めた。
体を包む、真っ白なロングコートには、返り血のシミ1つない。
完璧な白。それに引けを取らない美貌。

やけに風の声が、耳に残っている。

まるで、名前を呼ばれたような気がしていた。


カナ、と。

愛しい人の声で。






★★★★★



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送