± 裏街道 
TITLE 悪党ってスバラシイ?

 深夜のラジャリーネに、1人の客が訪れた。
濃い色のスーツ姿に、ダンディな帽子とよれよれのトレンチコートを合わせた中年の男は、迷わずカウンターに腰を下ろした。

「あ、お客様……そこは。」
「予約席かい?なにすぐ済むさ。2、3聞きたい事があるだけだ。」

 そう答えた男に、メイド服を着た可愛らしい店員は笑顔でさらりと言った。

「いえ、危ないですよ。」

 ガクン、
突然、男の座っている椅子の下の床が抜けた。

「ぎゃあああああああああああああーっ!!」

 真っ暗な丸い穴から、長い長い悲鳴が終わりなく続いた。

「あらやっぱり。バルでしょ?」

 男の座っていた隣の席の少年に、店員・スウさんは向き直った。

「うん。」
「勝手に落とし穴を掘っちゃだめでしょ。ちゃんと埋めといてね。」
「はーい。」

 どこからか持ってきた一輪車の上の土を、少年はザクザクと小気味よく、穴に放り込んでいった。店内の客も慣れたもので、誰も気にしていない様子だ。
見かねて、カウンターの黒コートの剣士と、謎なビバ☆生物の液体固形物は言った。

「………落ちた奴は?」
「……ざくざくざく。」
「きゃー!生き埋めにしてるわ!」

 この2人も、席を立たない所を見ると止める気はないらしい。続いて金髪の占い師が話し、赤毛の青年が締めた。

「バル、店内で行方不明者が出るのはまずいですから、他の所に埋めて来て下さい。」
「つーか、埋めるな!」
 

「ひどい目にあった……。」

 水色のロープにぐるぐる巻きにされて、生還した中年男性の第一声はこれ。この状況で目的を忘れないのは職業柄らしい。
男は、スーツの胸ポケットからバッチを取り出した。何故か遠くを見つめる5人組。

「最近、多発している銀行強盗の件で、聞き込みをしているんだ。」

 中年刑事の話はこうだ。
国にある3大銀行の内、2つの銀行から大量の金塊が盗まれたらしい。その手口は、まず入り口をセキュリティごと拳銃でぶち破り、赤外線の仕掛けられた通路を見破ったかのように越え、厳重な金庫の扉を紙でも切るように破る。金塊を奪った後は、壁に大穴を開けて出て行くというもの。そうそう、この強盗の通った後は、水を撒いたように濡れているらしい。
話を聞き終わった頃には、カウンターから全員の姿は消えていた。スウさんだけが和む笑顔で、「知りませんね」と刑事に返答していた。



 お店の裏でなぜか円を組んで座っている、ガラの悪い4人と少年の頭上の丸い影は、小声で会議を始めた。

「……正直に言え。」
「なんでオレを見て言うんだよ!赤外線なんかコイツしか見えねえだろうが!」
「見えなくても突破できる人はいるよねー。」
「確かに、私はコンクリートも素手で割れますけど、液化は出来ないですねえ。」
「………。」
「お?カスト黙ってるじゃん!ってことは。」
「ねーねー、銀行なんてあったの?」

 その後、沈黙が続いた。逃げたのは条件反射らしい。それからどうした?


 真昼間っからご苦労なことに、最後の銀行の前では厳重な警備が行われていた。
落とし穴に落ちた刑事も、元気に陣頭指揮を執っている。

「馬鹿な男だ。どれだけ外を守っても仕方なかろうに……。」

 明らかに悪代官、な面持ちの3人は、金庫へと続く廊下を歩いていた。

「まさか、銀行の内部に強盗がいるとは思いもしないのだろうな。」

 小太りの腹から見た目通りの声を出す3人の銀行頭取は、正式なセイキュリティ解除方法で、重々な金庫の扉を開けた。
ゴゴゴゴ、と音を立てながら金庫に光を入れる扉を、舌なめずりしながら太った男達は見やった。

「動くな」

 背後からの声と、背中に突きつけられた硬い金属に、男達は脂ぎった顔を驚愕で湛えた。

「お主も相当ワルよのう、越後屋?」
「いえいえ、お代官さまには敵いませぬわ。ふぉっほっほ!」

 ちょんまげと着物で時代劇コントをする、液体とバルを見終わった頃には、銀行の重役達は拘束されていた。

「とりあえず縛っときました!」

 良い汗をかいた仰ちゃんに、LEVは銃をしまった。

「おお、お前達は?いいい、一体どうやって?」

 上手く口の回らないオッサン達の前に、バルはしゃがみ込んだ。

「それはね、センサーが反応するより先に銃を撃ち込んで入り口を破って、簡単に見える赤外線をクリアして、液体を剣でさして引き摺って来たの。」
「すっっっごい!痛かったのよーっ!どうしてくれるのよーっ!!」
「そんで……。」

 くりん、と金の扉の方を向くと、調度タケヒロが日本刀を収めていた。
鍔が鳴る。同時に、金属の扉は紙のように散り散りになって崩れた。

「扉を切って、金庫を破りましたー!」

 ぱちぱちぱちぱち!

「もちろん、ここに入ってから全部仰ちゃんが元通りにしたんだけどね。」
「つ・ま・り。」(液体)

 真っ暗な中には、埃ひとつなく、全て浚われていた。見事に空っぽです。

「……裏工作に色々やりすぎたな。」
「実際に出来るのはオレらぐらいだし。」
「水の意味がわかんないわ!なんでなのー?」
「まあ、中身の心配はしないでいいよ。」
「それでは、ラストを飾らせて頂きますよー!…ホアチャーッ!!」

 ドッカーン!

 爆音に駆け付けた警官隊が見たものは、金庫の中に口を開けている大穴と、ハムのように縛られた小太りの頭取達だった。その側には、彼らが通路で話していた会話を録音したテープが置かれていた。


 黙々と自分の作った特別メニューを食する5人に、スウさんは満足げに言った。

「ちゃんと穴を塞いだんだ。」

 水を補給していた液体が、ストローを外して頷いた。

「ちょうど良い物があったから……。」

 ニュースでは銀行の頭取が捕まり、消えた金塊の行方を探しているとのこと。


END





★★★★★



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送