± 番外編な季節物
TITLE  ショウのガーツな±

 ぺったん、ぺったん、
客のいない店内に奇妙な音が満ちている。
独特の雰囲気を持つこの店に、合わない物はないと思っていたが、これは……すごいぞ。
 ウサギが餅をついてる。
ぺったんこー、ぺったんこー、と。
餅つきウサギの正体は、長い耳とふわふわ尻尾を標準装備した全身白タイツだった。(リアル?)
中身は……素で目立つ金髪・長身の青年と、小柄な可愛らしい女の子。
仰ちゃんとスウさんだ。

「………」

 杵と臼の見事な連携プレーで弄ばれる餅を、少年は生来の茶髪の間からぼーっと眺めていた。
少年、バルはカウンターのイスに後ろ向きに座って、背もたれを抱えている。
珍しく頭上には液体固形物の丸はいない。
カウンターの上にも這っている様子はない。
ではドコへ?

 1時間前。

 3人の男が店の入り口をくぐった。
最初に入ってきた男は、赤い短髪のツナギ姿。袖を捲くり、銀の左と生身の右腕を見せている。
次は、ロングコートの裾を揺らし日本刀を手にした青年。高めに結い上げた髪は前の男より黒っぽい感じだ。
最後に、日の光を凝縮したような金髪に中国服の男は、優しい微笑を湛えながら中に入った。
全員、大量の荷物を抱えている。
 バルはイスに座ったまま、顔だけ向けて買出し軍団を迎えた。
液体は定位置で、ぽよんと揺れた。乗っている頭が動いたから。

「お帰りーん」
「遅かったのねん!こっちはもう終わったんだぬーん!」

 カウンターのど真ん中には、少年の飾った鏡餅が鎮座していた。
留守番組みに言い付けられた仕事は、正月用飾りつけ。
白操猿(ミラ○ルさん)を真似るカストの上に、帰ってきた男達は詰め寄った。

「こっちはどんだけ店回ったと思ってんだよっ!!」
「……この寒い中、100店舗近く。しかも徒歩で……」
「私に言われても困るわ。拉致したのは仰ちゃんよ」
「あははー。今年は3人でしたから楽でしたねー。去年は1人で買い物に行きましたから」

 屈託のない、本当に他意のない笑顔でありがとうと言う仰ちゃん。兵器と暗殺者から戦闘意欲を失わせるのは並大抵の者には出来ません。
 店に入るなり正月の準備を強制された4人は、咄嗟に逃げ出そうとした。
それを止めたのはマスター・スウさんの一言だった。

「手伝ってくれたら今日の食費(飲み代含む)チャラ!」
「やりましょう」

 早々と掃除しだす少年を横目に、眼鏡の奥を光らせた金の占い師は、ツナギとコートを連れ出したのだった。
 無造作に置かれた食材やらその他諸々を、スウさんと仰は手早く片した。 特に意味は無かったのだろう。タケヒロは水色のゼリーと完璧な曲線の餅を見比べて、

「似てないか?」

 ぽそっと言った。
あとは全員の出来心?

「この辺が似てるかもね」
「白く塗ってみねーか?」

 餅とゼリーを並べて評論会を行い、仕舞いには色々やり始めた。
不満そうだったカストも、その内その気になりだして形作ってきた。
ぷにょぷにょな表面は波打ち、段差がついたと思うと、白く変わった。
中心に浮かんだ得意げな顔は、静かに聞いた。

「どう?」
「うーん、イマイチ」
「ガーン!」
「餅のしっとり感が出てないよね。軽そうだし……タケちゃん、ちょっと斬って」

 返答は無かったが、代わりにさくっと小気味良い音がして、鏡餅は二つに割れた。

「ほらほら、ぎっしり詰まってるじゃん。こんなカンジ」
「重さは変えられないの」
「じゃ、その餅を水色に塗るってのはどーだ?」
「LEV、それ何の意味があるのさ?」
「そっちの方が早いぜ」
「僕は液体がどこまで固形物に近づけるか試したいの!これは僕への挑戦なんだーっ!やるぞーっ!!」
「分かったわ!私ガンバル!」

 がっちり腕?を組む少年と固形物になりたい液体の背後に影が漂った。
内側から現れたメイド服の少女は、カウンターに顎を乗せて頭部だけを見せた。

「どうして割れてるの?鏡開きには早いよ」

 にっこりと微笑んではいるが、目、笑ってない。
全員の背筋が凍りついた。

「そんなに餅になる経過が見たんだー。ふーん。いいよー。見せてあげる」

 そそそそっ、と杵と臼が従順なる相方の手によって運び出された。
なぜか白ウサギタイツも準備万端。
たぶんこのスタイルは恒例なのだろう。

「スウさん……それはあんまり」
「バル、こんどそこから一歩でも動いたらお年玉ナシにするよ」
「二度と動きません。ええ大地震が来ようとも!」
「うそー!バールー!たーすけてえええええ!」


 そして現在に至る。
 ぺったん、きゃー、ぺったん、わー、
餅をつく度に微かな悲鳴が上がっている。良く見ると餅は水色をしていた。

「スウさん、どうですか?」
「こんなもんかな」
「いやん、くすぐったい」

 こねこねされ笑い顔の液体、もとい水色餅。形を整えられ、飾りつけされました。
外では窓掃除中の2人が声を荒げていた。

「さみーっ!」
「うるさい、さっさとやれ。俺の方が多く拭いてるだろう」
「餅斬ったのオメーなんだから当然だろ」
「連帯責任」
「こんな時だけ仲間ぶるなよっ、他国民が!」
「銃を撃つしか脳のない作り物が他人をとやかく言うな。……ああ、銃の才能もなかったな」
「ケンカ売ってるって取っていいんだな?」

 抜刀される音と、銃声が同時に響いた。
誰よりも良く聞こえるはずの高性能な聴覚の持ち主は、それでもイスから離れなかった。





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