± 外伝(LEメンバーに顔がついた記念) TITLE ROBOTのクリスマス。 『ロボット三原則』 第1条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。 その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。 第2条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。 ただし、あたえられた命令が、第1条に反する場合は、この限りではない。 第3条 ロボットは、前掲第1条および第2条に反するおそれのないかぎり、 自己をまもらなければならない。 (アイザック・アシモフ「われはロボット」小尾芙佐訳より) 培養液の中で見る夢は 体中に巡らされた、たくさんの管を通る液体の音と、 時計のように規則正しい心音が造り出している。 当然ロクな夢ではない。 それでも眠っている姿は安らかだと、ロー・エクストラに作られた2番目の兵器は思 う。 LE-2、固体名称は『セコン』と名付けられていた。 メタルドールと呼ばれる彼らに、生物的な感動の誕生はない。 生まれる場所は培養液の満たされたカプセルの中だ。 彼らはこの中で、眠ったまま数年間を成長する。 彼は今、まだ目覚めぬ5番目の弟を見に来ていた。 「……どうせなら妹の方がいいよなー。そう思わねえ?兄貴」 気配を察知し、振り向かずに声を投げかける。 入ってきた男は入り口付近の壁に凭れ、坦々と答えた。 「もう1人いる。戦力的には男の方がいい」 「だって色気ないぜ。このままだと枯れるって絶対!」 「キョウダイに欲情してどうすんだ、バカ」 「へーへー、どうせバカです。つーか俺らに血の繋がりってあるんかいな?」 「同じ母親から生まれた。それだけで十分だ」 「なーるほど☆」 納得すると、先に部屋を出た兄を追いかけて、セコンは研究室を後にした。 同じ上着を着込む二人が進むと、廊下の先から桃色の影が走ってきた。 ピンクの髪の妹だ。 「イチ兄!セコ兄!おっかえりーっ!」 体と同調して弾む声の4番目の妹は、2人目掛けて勢いよくダイブする。 「フィス!久っしぶりだなっ!!ちょっとは胸でかくなったかあ?」 彼女の体を受け止め、ぐるんぐるん回すセコン。 側で見つめる兄も、いつもは真面目な眼を優しく和ませていた。 「バカ兄貴!会って第一声がそれ? 今回、戦況が厳しいって聞いてたから心配してたのよ! 初っ端からエロトークしないでよ!」 「はいはいゴメン!ほら!チューしてやるから許せ!」 「ぎゃーっ!!いやああああ!」 唇を尖らせるセコンに泣きそうな表情で体を離すフィス。 でもしっかりと抱きしめている腕は解けず、彼女は視線でもう1人の兄を頼った。 「それを止めろって言ってんだろ!」 イーチはいい音をさせては弟の頭を殴ると、手から妹を奪った。 苦悶の声を上げて頭を押さえるセコンを余所に、 長兄は柔らかな桃色の髪を撫でていた。 「髪が伸びたな」 「うん!」 可愛らしい少女の笑顔に絆され、兄もつい笑顔を返すが、 ある人物の登場により表情を引き締めた。 「LE-1号及び2号、任務完了につき帰還致しました」 右手を上げ、敬礼する兄に同調するセコン。 目の前にはタバコを咥えた金髪の白衣の女性がいた。 「凱旋ご苦労……おかえり」 司令官としても区切りをつけてから、ローは優しい瞳で2人を迎えた。 夜。 広めの部屋にロウソクの明かりが灯る。 畳1畳分程のケーキの上に、100円ライターで火をつけ続けるセコンは、 背後から忍び寄った兄により、お約束通り殴られていた。 「何本立てる気だ」 「痛って!…言う前に殴るなよ。本数は誕生日の不明なローの歳」 「へーえ、誰の歳だって?」 「いえいえ、何でもございません」 白衣の女性が現れ、即座に数十本のロウソクを払いのけるセコン。 隣ではハラ減ったとブーイングする妹がいた。 「ビィの方はララに任せてきたし、始めよっか☆」 タバコを咥えている唇を持ち上げ、彼女は隠し持ってきたシャンパンのコルクを、 勢いよく飛ばした。 「ぎゃーっ!冷てえ!」 「ママ!ケーキが崩れていくわっ!」 「うるっさいわね!サーを見習ってとっとと食べなさい!」 「……もぐもぐ」 降り注ぐシャンパンの雨の中、茫洋と目の前の物を食べ続けるサー。 呆れるというか、感心する周囲の兄達。 そして覚悟を決めて巨大なケーキに齧り付く各々だったが、 「…辛い!何ケーキだよ、これっ?」 「……もぐもぐ」 「イヤー!こっちはしょっぱい!」 「……もぐもぐ」 「言い忘れたけど、料理全部ロシアンルーレット的に作ったから」 「指令、改造好きを食卓にまで持ち込まないで下さい。サー食うな」 長男の忠告を、サーは頷くように謎の食べ物を喉へと押しやった。 「……ゴックン」 「おまえはマイペースすぎるな」 「いいじゃない。私サーのそういうとこ好きよ。ホラ飲め」 「……ゴクゴクゴク」 「おおー!いい飲みっぷりね」 白衣の手は瓶ごと口に突っ込んで、黒髪の少年に残った液体を全て飲ませる。 「よし!次!」 ローはパチンと指を鳴らし、マシン兵にダース単位で酒を運び込ませる。 「はは、こーなりゃやってやるぜ!」 参戦を決めたセコンはビール瓶を掴んで、思いっきり振りまくってから栓を外す。 「バカー!冷たいってばぁ!」 「フィス!テメー兄に対する言葉使いがなってねーぞ!」 「イチ兄にはちゃんとしてるもん!」 「俺は?」 「バーカ、死ね」 「いい度胸だ!ケーキでもくらえ!」 ケーキの一部を素手で持って、妹の顔に投げつける。 身を屈めて避けるフィスの頭上を抜けた生クリームの塊は、 サーを抑えていたイーチの横顔に命中する。 「…これは俺への挑戦か?」 「事故かな?って聞いてねえな!」 「おまえはいつもいつも騒がしい!行動を共にしている俺の身にもなれ!」 「兄貴が真面目すぎるんだよ!」 「きゃー!私まで巻き込まないでよう!」 「……モグモグモグ」 飛び交うケーキのクリームは壁に塗られ、白をさらに深めていく。 1番目は仕返しとばかりにケーキを投げまくっている。 2番目は妹を盾に追撃をかわしている。 3番目は今だ目の前の物を食べ続けている。 4番目は捕まえている兄の手にフォークを刺して逃げようとしている。 一言で表すなら、 「仲の良いことで……」 わったわたな状況の中、ローはただただ微笑みを浮かべて、 新しいタバコに火をつけていた。 ここにあと1人加わったら、どうなることやらという不安は一切ないようだ。 ロボットはただ人間の命令に従う物。 兵器はただ人間に使われる物。 それでも彼らは生きていると心から感じている。 この笑い声さえ作り物でしかないのだろうか? まだ彼らに訪れる破滅の足音は聞こえていない。 この部屋を染める生クリームが赤く変わる日を、まだ誰も知らない。 そんな、いつかのメリークリスマス。 |
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