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TITLE DONA−DONA

 ある晴れた昼下がり、
陽気な日差しに誘われて、道行く人も少し浮かれているようにも感じる。
明日はこの国の建国記念日らしい。
おかげで、街は買い物や飾り付けに大忙し。
八百屋のおばさんも、肉屋のお姉さんも、
トマトとお惣菜のコロッケが無くなっていることに気づかない。
 人込みをすり抜けていく小さな影を、誰も気に止めなかった。

 同時刻、国のシンボルとも言える城から、一台の軽トラックが走りでた。
荷台には一杯の花火を載せている。
打ち上げ花火(火薬の詰まった丸い物)がごろごろと揺れる中で、
何故か一つだけプニョプニョした動きをしている物があった。
しかも変色し始めている。
元の水色に戻った花火(というよりゼリー?)は遠ざかっていく城を見つめて呟いた。
「ギャグだったんだけどなぁ……」
 哀愁を漂わせる丸い背中を乗せて、車は街の市場へと向かっていった。
城の中では、城をでた王様に変わって国を統治している首相が何かを探しているご様子でした。
 ※この時点でウォータU(セカンド)は城にはいないが、カストはまだ幼い(?)ため
 城で生息…生活していた。
 幹部クラスしか知らないチョー極秘。
 首相は水色の長い髪を揺らしながら、廊下に飾られた花瓶の中や、
カーテンの裏を探っていたが、一向に目当ての物が見つからないので
事情を知る、女性司令官を尋ねることにした。
「ララ様…………を知りませんか?…お忙しいですか?」
「用はもう済みました。私は様付けじゃなくて結構ですよ。……は見てませんね。
 あら?貴方なら分かるのでは?」
 火薬を調合する為の機器が整然とする中で、女性はイスから立ち上がった。
「私の体はまだ……とはリンクをしていません。王と認める者しか共有できないのです」
「これは失礼しました。早急に探させます」
 白衣姿の金髪の女性はお気に入りのタバコを手に取って、自身の部屋を出て行った。
「……まあ、すぐにもどってくるでしょうけど」
 優しい面持ちで、この国の首相様は部屋に帰っていきました。


 市場に着いた車は、真ん中に設けられた広い広場に進むと、
城から出荷した物を下ろし始めた。
 数個下に下ろすと、微妙なバランスで積みあがっていた荷台は、一気に崩れた。
「むぎゅ……」
 逃げようとしていた液体固形物は雪崩れた花火に埋もれていった。
次に気がついた時には、真っ暗な中で、テンションの高いMCを聞いていた。
伸びた体の下には丸いゴロゴロした物があるのを感じた。
「さあさあ!お立会いのみなさん!今日はこの国が生まれた日だ。
 戦争なんて悲しい時もあったが、立ち直った今、盛大に騒ごう!」
 歓声が上がる。
ハデな水玉のスーツに蝶ネクタイのアナウンサーはステージを所狭しと動き回っている。
元来、ハイテンションな種族のようだ。
スーツに負けない真っ赤な肌をした男はマイクを握りなおし、高らかに宣言した。
「ただ今より、メイン・イベントの開幕だぁーっ!」
 一段と大きくなった歓声を合図に、舞台裏で設置された花火に点火された。
ジジジジッ
 導火線を辿って、火が近づいてくる。
筒の中で、液体固形物は大きく口を開けた。
ヒューン……ドォーンッ!
 上空で爆発する花火に混じった悲鳴を、聞いた者はいなかった。
「翼が欲っしいぃっっっー!!!!」
 帰りたいという切実な願いを込めて、王子様は流れ星になりました。
軌跡を残し、飛ばされて行く水色の星に気づいた一人の男は、
薄い唇の端に不気味な笑みを浮かべて、その場から姿を消した。


「昼の花火ってのもいいねー」
 屋根の上の特等席から花火を眺める少年がいた。
動物の耳を垂れ下げて、花火の音を外す。
彼には大きすぎる音量のようだ。
コロッケを平らげ、満足したお腹をさすりながら、デザートと思っていたトマトを
指先でクルクル回転させてみる。
「これ食ったら行きますか!」
 ぽんっと宙に浮かしたトマトを両手でキャッチした。
当然、体制は上向き。
「……雨?」
 恐らくこの世界で一番高性能な瞳を持つ少年には、遥か上空の降り出した雨粒さえも
見分けることができる。
水色の水滴は小さな点からどんどん大きくなっていった。
「お?…おお?…おおおっ!?」
「あぁ〜れぇえええええぇ〜」
「変なモン降ってきたああぁっ!」
 水色の顔が落ちてきた。
ちゅどーんっ!
 落下物に衝突した少年はバランスを崩し、2階建てマンションの屋根(人の家)から
滑り落ちた。
「…し、死ぬかと思った」
「下で、死んでますー」」
 下敷きにした液体が地面をタップして、脱出を要請する。
「ゴメン、てゆーかさあ?君、何?ナマモノ?」
「ナマっちゃ生だけど……カストロールと申します。初めまして」
「こちらこそ初めまして、バルといいます」
 丁寧なおじぎにつられて、頭を下げるバルという少年。
「で?何で空から降ってきたの?」
「実はウケを狙って花火に化けたら、本当に間違えられて出荷されて打ち上げられたの」
「……何それ」
「だって、ララ姉さんが楽しそうに火薬の調合してるんだもん。ちょっと驚かそうって……」
「ワケ分かんない。ん?ってことは今ヒマなんだよね?ちょっと付き合ってよっ!」
「いやんコレってナンパ?」
「告っちゃいましたぁ!ってそんな訳ないじゃん!」
「…ノリツッコミだ。ノリツッコミだあっ!」(声を大にして言いたいらしい)
 初めての感触に打ちひしがれ、プルプル震えている液体。
ただ今、ベストのタイミングで、しかも乗ってまでくれたツッコミに感動しております。
生まれて初めての充実感に浸っている液体を、バルは両手で持ち上げた。
「…変な生物。ま、いいや。ちょっと来てね」
「あっ!耳生えてる!」
「…気づくの遅くない?」
「触ってもいい?」(ドキドキ)
「別にいいけど」
 カストを自分の頭の上に乗せるバル。
何だか妙に落ち着いている液体固形物。
緑茶を飲み出しそうなくらい、なごんでます。
 不意に横を向いていた耳が起き上がる。
「何か用?」
 建物の影からこちらを覗き見ていた男に、バルは声をかけた。
黒い短かめの髪を四角い眼鏡にかけ、よれよれのスーツに身を包んだ男は、
見るからに怪しい。
「コレ(カスト)のストーカー?」
「……フヒヒヒ…」
「…笑ってるよ。ヤバ目ちゃんでーすね。本当に知り合いじゃない?」
「知りません」
 きっぽりと答える頭上の液体に、落ちないようにと忠告すると、
少年はその小さな体を反転させた。
「ダーッシュっ!」
 2人同時に叫びながら逃亡する。
 男は大きく開いた口から唾液を零し、大声を上げた。
「待ぁてえぇぇぇっ!その水をよこせぇえええぇぇぇぇっ!」
「ぎゃーっ!追いかけてきたぁ!」
「もしかして、私が追われてるの?」
「もしかしなくてもそうだよっ!」
「身に覚えないわっ!」
「今日だからでしょっ!」
「…今日は何の日?」
「建国記念日!アーンド水追い祭り!」
「……知らないんですけど」
「マジで?むしろこっちがメインじゃん!
 今日の日没までに、一番と思われる水の種族(スラ○ムとか)を城に持参して、戦わせるの。
 優勝者には1年分の……」
「水?」
「しぇーかい!(正解)この国って水道代高いからねー。その分税金ないけどさ。
 売っても結構な額になるらしいよ。おかげであんな輩が出ちゃうけど…」
 人通りのない路地を抜けてながら、バルは恐る恐る後ろを振り返ってみると、
「ひっひゃひゃひゃひゃっ、水だ!水だあっ!」
「完璧なジャンキーって初めてみる。バルは?」
「初めてだよって……危なっ!」
 後ろからナイフが飛んできた。
バルは間一髪の所でそれをかわすと、次に備えた。
目の前には十字型の手裏剣が迫っていた。
 避け切れないと判断した少年は、液体を盾にした。
「キャインッ!」
 眉間に手裏剣を食らって号泣するカストの裏では、
「どーだ!必殺水ブロック…痛っいっっっ!!!」
 当然、液体は硬くないので通り抜けます。
カストと同じ場所に刺さった手裏剣を抜く。
幸い、貫通した後なので威力は半減したようだ。でも血は出ている。
「イタタタタタタッ!」×2
 共に額を抑えた疼くまる。
「ふひひひ?……血?血だあっ!でっひゃひゃひゃっ」
 更に狂喜をました男の表情に、寒くなるバルは液体を振り回し、
建物の屋根に引っ掛けた。
「いっけーっ!」
 逆バンジーの様に2階の屋根まで飛び上がる。
スタン、と着地しさすがにここまではと安心した矢先、
しゃかしゃかしゃか…
嫌〜な物音に下を覗き込んだ液体は悲鳴を上げた。
「スパイ○ーマンッ!」
 壁をよじ登ってくる男を、自分の体で表現する。
「にーがーすーかーあー」
 屋根の淵に手がかかり、ゆっくりと血走った目が現れた。
「あわわわわ!どーすんのバルっ?」
「そーだねえ、じゃあ……こうしよっか」
「えっ?」
 バルは不思議がるカストを摘んで、屋根から下にかざすと、
笑顔で男を見下ろした。
「受け取れ♪」
 指先から丸い物体が宙に放たれる。もちろん悲鳴付きで。
とっさに男は両手を伸ばし、少年が投げた物をがっちりキャッチしたが、
手に収まったのはカストではなく、真っ赤なトマト。
バルがこっそりとポケットに忍ばせて、落下からも守った物だった。
 投げる瞬間、すりかえていたのだ。
悲鳴はカストの演出だったり……。
ドーン!
 ハデに音を立て、男はそのままの状態で地面に沈んだ。
道には両手足を広げた人間の穴が開いていて、それを見た2人は大笑いしていた。

場所を移動して、何処かの屋根の上に腰を落ち着かせた2人(?)
祭りは徐々に終わりの方に近づいてきているのか、町の騒がしさも大人しいものと変わっていった。
「…これからどうするの?」
 カストは隣の少年に声をかけた。
「…んー、とりあえずここで夕日でも見ますか」
 バルは少し下の液体に答えた。
「日没まででしょ?水もらえないよ?」
「いいよ。君弱そうじゃん」
「うっ……」
「家ドコ?あとで送ったげる」
「えーと、あっち!」
 指(?)さした方向には、雄大にそびえる城。
しばし考えて、バルは独自の答えをだした。
(……今日のディナー?)
 見た目から、城に住んでいる王族には見えず、今日の夕食の食材という結論を
出した少年は、可哀想とかいう同情は全くナシで、
頭に浮かべたのは液体の上に刺身などを並べた女体盛り。
ウィンクして、食べて☆という姿を想像して、一人腹を抱えていた。
「ぎゃははははっ刺身サイコー!」
「…私、何イメージしてるか分かっちゃった」
「あら、いやん、分かっちゃったのかーこりゃおじさん1本とられたね!」
「そら、分かりますがな!って君、おじさんやったんやね」
「ばれたか!実はサラリーマンやってますー。もう10年はあの会社にこきつかわれて…
もうたまりまへんわ………って誰がサラリーマンやねん!」
「そら君が言ったんやがな」
「しっつれーしましたー!」

やがて、夕焼けの火が町を真っ赤に染める頃、屋根の上にいる小さく異様な影2つも真っ赤に染められて、
人々がそれに気付く事もないうちにそれは姿を消していた。

獣人+ゼリー












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